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婚約破棄っ、オムニバス

婚約破棄っ、レディ、アンド、パンツアー

ど、どこまでゆるされるのだろう。

どきどき。 

「ルクレール公爵令嬢、あなたとの婚約を破棄するっ」

 ストリッツバグン王太子が、大声で言った。

 貴族学園の卒業パーティーである。


「そして、シュトルムティーガー男爵令嬢と結婚する」

 隣にいた、ピンクプラチナで、胸部装甲の厳つい、令嬢の腰に手を回す。


「何故ですか?」


「ロマンに目覚めたのだっ」


「シュトルムティーガー令嬢に、発動機(スターター)もなくクランクでエンジンをかけるとか」

「給弾に五人、人手がいるとか」

「教室(富士の裾野の演習場)まで、ガス欠でたどり着けない」


「とか言っていじめたな」


「全て本当のことですわ」

 ルクレールの金髪の縦巻きロールが、頭の動きとともに揺れた。

 エメラルドグリーンの瞳が、王太子を見つめる。


「さらに、これ見よがしに砲塔を回転させたなっ」

 ストリッツバグンが吠える。

 

「え、ええ、戦車ですもの」

 ルクレールが小首を傾げる。


「くっ、S(ストリッツバグン)タンクは固定砲だっ」

「やれ、森の中での待ち伏せ用とか」

「逃げる用に後ろ向きに、予備操縦席(無線手と兼任)があるとか」

「油気圧サスの動きがかっこいいとか、陰で散々言われたんだ」


 シュトルムティーガー男爵令嬢もコクコクと頷く。

 シュトルムティーガーも固定砲である。


「何がフ○ンスが誇るコンピュータータンクだあ」


「くっ、政略結婚ですわっ、解消には王陛下の許可がいるはずです」


「固定砲を、バカにしただろおお」

 王太子に話が通じない。


「……仕方ありませんわ」

「ルクレール、エンジン始動っ」


 ガホオオオン


 背後にあった巨大な戦車の排気ガスで、パーティー会場の料理が吹き飛ぶ。


「望む所だあ」

「エンジン始動っ」

 ストリッツバグンは、同じく後ろにあったSタンクに飛び乗った。


 シュトルムティーガー男爵令嬢とアイコンタクト。

 お互いの意図を確認し合う。


 ドドドド


 パーティー会場の窓ガラスが、エンジンの振動で全て割れる。


「かかってえええ」


 キュウウウウ


 シュトルムティーガー令嬢は、その細い腕で戦車のエンジン始動用のクランクを回す。

 (ティーガーⅠの車体を流用、ティーガーⅠだが大柄なドイツ人男性が、二人がかりでかけていたぞ)

 胸部装甲が揺れた。


「ふふっ」

「エンジンのかかってない相手を、攻撃はしませんことよ」

 砲手のメイドに、ストリッツバグンを狙わせる。

 砲塔が指向した。


「発砲しながら全速後退っ」

 無線席に座った”宰相の息子”と、操縦士兼砲手の”騎士団長の息子”に指示を出す。

 側近だ。


 バッカアアアン

 キイン


 Sタンクの砲弾は、ルクレールの複合装甲に弾かれた。

 

「車体を斜めにっ」

 ヒルメシというやつだ。

 ただでさえ傾斜のきつい車体を、さらに斜めにする。


 ドカアアアアン

 カイン


「弾いた」

 Sタンクが城下町に逃げ込んだ。



「弾かれましたわ」

「セバス、全速で追いかけなさい」

 

「はい、お嬢様」

 操縦席のセバスが答えた。


 城壁に囲まれた城下町を、二台の戦車が疾走する。




 ドロオウン


「かかったああ」

 シュトルムティーガーのエンジンが、掛かった。

 男爵家は貧乏である。

 召使いはいない。

 彼女は、38センチロケット臼砲弾の給弾の為に、逃げ遅れた人に声をかけ始めた。

 親切な令息や令嬢が、助けてくれる。

 備え付けのクレーンを使って、巨大な砲弾を砲身に詰め始めた。



 城壁の上で住民たちが、やんややんやと見学している。

 魔法で作られた巨大なスクリーンが、ニ台の戦車を映していた。


 家屋の列を一本挟んで、二台が走り抜ける。

 

 ドカアアアアン


 ルクレールが発砲。

 宿屋軒酒場を、砲弾が貫通する。


「やったっ、国が新しく建て替えてくれるっ」

 酒場のオヤジが叫んだ。


 ガアアアアア


 一瞬、家屋の列が切れる。


「いけえっ」

 王太子が指示した。

 Sタンクが、180度回転しながらルクレールの前に飛び出す。

 

 バッカアアアン


「外した」

 しばらく後ろ向きで走り 噴水広場で、再度180度回転。

 下り階段を、二台の戦車が飛んだ。

 

 ドカアアアアン

 バッカアアアン


 狭い城下町を、二台の戦車が縦横無尽に走り回った。



 パアアアン


 白い信号弾が空に上がった。


「きたぞっ」

「引き離さない様に誘導しろっ」

 ストリッツバグン王太子が、側近に指示を出す。


 パーティー会場へ向かった。


「この先は開けた、パーティー会場ですわよ」

 ルクレールは、ストリッツバグンを追いかける。

 当然Sタンクは、後ろに砲を撃てない。

 狙いをつける。


 Sタンクが、真っ直ぐ会場を通り抜けた。


 ルクレールが発砲を命令しようとした時、


「まさかっっ、まずいですわっっ」

 ルクレールは、パーティー会場の真ん中、シュトルムティーガーの真横にいることに気づいた。


 ドドドドオオオン


 真横から至近距離で、38センチロケット臼砲の直撃を受けた。


「きゃあああああ」

 

 ルクレールが宙を舞う。

 パシャン

 車体に白旗が上がった。


「どうだっ」


「これがっ、ロマン砲の力だっっ」

「力よっっ」


 ストリッツバグン王太子とシュトルムティーガー男爵令嬢、宰相の息子と騎士団長の息子が、声を合わせて言った。

 


 結局、国の中枢がロマン砲ではまずいということで、ルクレールを王妃に、シュトルムティーガーを側妃に迎えてバランスを取った。


 ストリッツバグンとシュトルムティーガーの突破力(脳筋とも言う)を、ルクレールがうまく活かし、国は栄えた。

 なんだかんだと仲が良い。


 

 もうこの国に、固定砲を笑うものはどこにもいない。


 了

 

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