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34-1. 現在、過去、未来①

 1年ぶりの異国の友との再会 ――――


 それは、アッディーラとカシュティールの対等な休戦条約のための会談、という形で実現した。

 かねてより休戦条約の結ばれていた両国であるが、前魔王のカシュティール侵略により、再びその内容を見直す必要がある、と判断されたのだ。


 会場は、エルヴィラの希望でカシュティールの王城になった ――――


 前魔王の侵略以降、一般の魔族は魔力の有無を問わずカシュティールへの出入りを禁じられている。


 事実上、国交断絶に近い状態での来訪と対面…… 当然、緊張感のみなぎるものになるだろう、という大方の予測に反して、王城の貴賓室には、和やかな雰囲気が満ちていた。


「あぶぅ…… だぁ……」


 青空の色の瞳をぱっちりと開け、小さな柔らかな手を伸ばしてニコニコと笑う赤ちゃん。

 その可愛らしさに、居合わせた大人は魔族も人間もなく皆、目を奪われ口許を緩めてしまっているのだ。


「髪と瞳の色はリュクス様なのですね。顔はエルヴィラ様にそっくりです。この白い肌」


 ふくふくと柔らかな頬をつん、とルイーゼがつつくと、きゃっきゃっ、と楽しそうな声が小さな口から上がった。癒される。


「お生まれになった旨、お手紙をいただいて、お会いしとうございましたの。ここに連れてきていただけましたこと、嬉く存じます」


「うん、あたしが見えなくなると、ものすごい泣いて手がつけられなくなるからね? 政務の時も一緒よ」


「まあ…… エルヴィラ様ご自身の手で育てておられるのですか?」


「侍女の手を借りてはいるわ。けど、この子も魔力がないから…… いつ反対派にプチッとやられるかわからないし、ヘタな者をつけて魔力至上主義を吹き込まれても困る。

 あと、この子のパパになりたい、って言ってくる不逞な輩が…… 3人ほど? 騙されるかっていうのよバーカ」


 その3人の中に良い人が1人くらいはいたりしないのだろうか。

 自分のことは棚上げして、そう考えるルイーゼ。


「それは…… 気が抜けませんね」


「うん。けど、頑張らなきゃ」


 エルヴィラが成そうとしているのは魔族の意識改革。

 『魔力の強い者ほど偉い』 という考え方を改めようとしているのだ。

 ―――― 魔力の無い者が不当に虐げられたり生命を脅かされることなく、また、魔力の無い者でも、他の能力に優れていれば、それを活かす機会が与えられる。


 そういう国に、アッディーラを変えようとしているところである。


「魔力でトクしてきた者は、ほぼ反対派。やってらんないわ、もう。前の精鋭たちは殺魔聖石(デモン・マタンド)でほぼ死んだから、まだマシとは思うんだけどね…… ルイーゼは?」


「全国から身分問わず優秀な子を集めて教育を施し、そこから次の王太子を決めようと…… そう計画しているのですが、やはり、貴族や王族からの反対が多くて難航しております」


 それに、聖女のシステムの見直しも図っている。


 聖女の紡ぐ対魔結界は、国防の要 ―― ただ1人に担わせるのは、以前ザクスベルトも言っていたが、やはり問題があるからだ。


 1度目の人生であったように、聖女が健康を損なうだけで国は危機に瀕してしまう。


 そこでルイーゼは 『全国から適性のある子どもを集め、聖女や聖騎士として教育する』 との案を出しているが、こちらは、神殿からも辺境伯3家からも、こぞって反対されている。


 聖なる力は、()()()()ですら、現れるとは限らない。

 なのに全ての民から探すなど、時間と労力と資金の無駄 ――――

 彼らはそう主張してやまないのだ。


「やってみなければ、わかりませんでしょうに……」


「お互い、大変ね」


 話し込んでいるうちに寝てしまった赤ちゃんを優しくゆすりながら、いたわるような口調のエルヴィラ。


(昔は、『あたしのほうが!』 というような感じでしたのに……)


 半分寂しく、半分心地よい。

 そんな気分になるルイーゼだったが、そのとき。


 貴賓室の外から、慌ただしい足音が聞こえた。ついで、押し問答しているような声。


「あら。どうしたのでしょう、騒がしいですね」


 扉が遠慮がちに叩かれた。


「失礼します。神殿から緊急の使いが参っておりますが」


「…… 入ってください」


 きびきびと早足で入ってきた聖騎士がひざまずいてルイーゼに差し出したのは、中央神殿からの手紙。

 さっと目を走らせたルイーゼの顔が、わずかに曇った。


 そこに記されていたのは ――――


『聖女リーリエ、危篤』


 の、一文だったのだ。




 ※※※※




「…… ルイーゼ…… 良かった、生きてるわね…… 魔族の姫も……」


「お母様……! どうして……」


 寝台に横たわった聖女は、意識がなく荒い呼吸を繰り返していたが、ルイーゼが治癒の神力を注ぐと、うっすらと目を開けた。


「えっ、あたし?」


 呼ばれて戸惑う、エルヴィラ。

 魔族である彼女は、本来ならばカシュティールの神殿に入れる立場ではないが、ルイーゼが 『会談を済ませてからでなければ』 とためらうので、むしろ彼女を引っ張るようにして、来てしまったのである。


「そう。国女神(カシュティア)様が、教えてくださったのよ…… わたくしが、時の神殿に願を掛けて秘儀を行えば、あなたたちを助けられる…… と」


「時の神殿…… まさか」


 ルイーゼははっとした。


「もしや、お母様が!?」


「そう…… あなたたちの1度目の人生が終わった日に……」

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱりかあああ!!!!
[良い点] ああ、最後にして一番の謎が解けましたね。 貴女でしたか。 もう少し謎もありますけど、続きをお待ちします。
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