33-2. 処刑②
「ルイーゼ……! それでも、実の娘か……!」
「もと公爵、あなたを実の父と思ったことなど…… お母様が聖女となって家を出られて以来、まったく、ございません」
「ルイーゼ、きさま……!」
「ご安心くださいませ」
ルイーゼは美しく微笑んだ。
「庶子というだけで家督を継げず、女性というだけで当然のように政略の駒として扱われ、平民というだけで権益の外に置かれる……
そのような風潮を正したいとおっしゃるもと公爵様のご遺志、わたくしが確かに継いで差し上げますので。
…… では、ご機嫌よう」
そうしようと思えば、とことん冷酷に振る舞えるのは確かにグンヴァルトの血だと、我ながら感心するルイーゼである。
―――― そしてこれが、ルイーゼがグンヴァルトに会った最後になった。
マルガリータのほうはといえば、その処分が下されたのは、グンヴァルトよりもかなり遅かった。
アッディーラ産の毒入り茶を国王に飲ませたことが故意か過失かが、まず問われていたためだ。
もっとも、審議の間に国王が亡くなったため、死因を作ったマルガリータはどのみち、処刑されることが確定したのだが。
―――― 故意であれば、グンヴァルトと同様に、全国民の意見を反映させた公開処刑。
過失であれば、従来の貴族の処刑方法を適用して毒杯をあおることになる。
審議は最終的に、故意の罪、ということに落ち着いた。
―――― マルガリータの実家である宿屋がカシュティールにおける魔族の拠点として使用されていたことが、確認されたからだ。
聖騎士団が地道に捜索し、宿の主人夫婦をしつこく脅してなだめて締め上げた結果である。
主人夫婦はマルガリータの頼みで魔族に協力し、また、例のお茶をマルガリータに融通していたのだ。
宿屋の一室の床には、魔族の転移陣が描かれた跡があっただけでなく、屋根裏からはリュクスもと王太子の紹介状とアッディーラのやや白いダムウッド入りのお茶が大量に出てきたことも、動かぬ証拠となった。
なお、リュクスの紹介状は、関わった魔族の商人の陰謀が貴族中に知れ渡っており、貴族に対して使えるものではなくなっていた。
だが、下々 ―― 貴族や王族の印章つきというだけで有り難がる者たち ―― には、持っているだけである程度の箔をつけることができるものであり、そうした使い途で数人のゴロツキに売ったという。
もちろん全部回収することになるのだが…… もし万一使われたとしても、ちょっとした詐欺程度にしか、ならなかっただろう。
なんともお粗末な話である。
かくして、宿屋の主人夫婦は絞首刑。
マルガリータも、公爵と同様に重罪人として公開処刑されることとなったのだが、こちらは生来の強気な性格のせいか、グンヴァルトよりは落ち着いたものであった。
マルガリータは民衆の前で鞭打たれ、炎の中で命を落とす寸前まで、王族と貴族を罵っていたという。
彼女が最後まで身につけていたペンダントには、亡きリュクス王子の肖像が描かれていたそうだ。
―――― 息子を魔族に殺されながら、魔族に国を売るために王に毒を盛った女性 ……
もしかするとマルガリータは、最終的に誰かが魔族に復讐することを信じて、公爵の計画に乗ったのかもしれない。
ふと、そんな気がするルイーゼであるが、真実が明らかになることは、おそらくもう、ないだろう。
一方、アッディーラでは、魔王を始めとした魔族の重鎮のほとんどが殺魔聖石入りの丸薬のせいで亡くなったため、計画どおりエルヴィラが皇帝位を継いでいた。
魔族の間には、一般に殺魔聖石の存在は知られておらず、エルヴィラがその丸薬を魔王たちに飲ませていたことも当然、闇の中だ。
魔王やその重鎮たちを殺したのは、エルヴィラの蜘蛛糸、ということになっているし、事実、生き残った目撃者にはそう見えた。
―――― 魔力よりも強い、操糸術を使う皇帝。
こう思われている限り、当面はエルヴィラの政権は安泰と言えそうだ。
―――― それぞれの国のトップとなったルイーゼとエルヴィラが、再び出会ったのは、魔王の侵略事件から1年後。
偶然にも、ふたりの1度目の人生が断たれた、その日だった ――――