33-1. 処刑①
魔王が滅びた後すぐ、国王は正式に譲位し、ルイーゼがカシュティールの王となった
ずいぶんと急な譲位になったのは、国王の病が悪化の一途をたどっていたため。
それに、ルイーゼの王太子としての立場が、この度の件で少しばかり微妙なものになってしまったせいでもあった。
―――― 実父のグンヴァルトが売国の罪を犯し、アインシュタット公爵の地位を追われたのだから、影響がないのがおかしい、というものだ。
一応はメアベルクのシェーン家の養女、という名目のおかげで、王太子見直しの声が諸侯から大っぴらに上がることはなかったが ――――
国王が亡くなった後には、ルイーゼを王位継承者とは認めずに王妃を担ぎ上げる者が現れたり、隣国からの干渉があったりしかねない状況だったのだ。
―――― 国内の安定を図るためには、国王存命中かつ魔王討伐の功績がモノを言っている間に、ルイーゼが即位するほうが望ましい。
かくしてルイーゼは、王の代理としての王妃の承認を得る形で即位し、これまでに輪をかけて忙しい生活を送ることになったのだった ――――
聖女の後継としての修行も続いているため、即位後の労働量は半端ないものであったが、ルイーゼは黙々と仕事をこなした。
その仕事の中には、亡き第一王子ザクスベルトの名誉回復と、もとアインシュタット公爵グンヴァルト・もと国王の愛妾マルガリータ両名の処刑も含まれている。
―――― グンヴァルトもマルガリータも、証拠はあるにも関わらず、最後まで罪を認めようとはしなかった。
「庶子というだけで差別される世の中がおかしいのだ。私は世の中を正そうとしただけだ」
牢の中でなおもそう主張するグンヴァルトに、ルイーゼはうなずいた。
「本当に、そのとおりでございます、もと公爵様。今の世の中は、正しいとは申せませんものね」
「では……」
もしかしたら、恩赦があるかもしれない…… グンヴァルトの都合の良い期待は、次のルイーゼの言葉で即座に打ち砕かれた。
「そこで、今回から重罪人の処遇には全国民の意見を反映させることにしましたの。国民のみなさまの判断によっては、減刑もございますかも……」
国を魔族に売ろうとしたことは、紛れもない大罪である。おそろしいことにグンヴァルトたちは自覚していないようだが。
どのような大義名分があろうとも、それを許していては統治は成り立たない。
そして処刑は、カシュティールの平民にとって、見せしめであると同時に、数少ない娯楽のひとつでもある。
―――― もし 『お貴族様をどうしたい?』 と尋ねられれば、こんな楽しい機会を、庶民たちが逃すわけがなかった。
減刑どころか、通常、貴族階級以上に認められていた毒薬での非公開処刑も、彼らにとっては生温いだろう。
人々が隠し持っている残虐性を満たすために、正義の名をもって望むのは、おそらく、もっとも残酷な方法での公開処刑 ――――
さすがのグンヴァルトにも、それは理解できたらしい。
牢暮らしのストレスでやつれた顔が、恐怖に歪んだ。