31-4. 決着④
エルヴィラがカシュティールから帰る際に用意された手土産の数々には、それぞれに目的があった。
殺魔聖石の黒い小瓶は、エルヴィラ自身が魔王にとって役立つ存在であるとアピールして信用させるため。
同時に、殺魔聖石を怖がってみせることで 『エルヴィラが殺魔聖石を扱うことは絶対にない』 という印象を周囲に植え付けた。
そして、 『魔力を増す』 という名目で持ち帰った大量の丸薬。
「あの丸薬はね、コーティングには確かに色々、一時的に魔力を増す薬が入ってたけど、中身はやっぱり殺魔聖石だったんだなぁ……」
魔族の体内に入った殺魔聖石は毒に変じ、魔力の源である心臓に作用する。
しかしこの毒は、魔力によりある程度ガードが可能であるため、力の強い魔族であればすぐに効くことはなく、一時的に魔力を増す薬のみが、すぐに効果を発揮する。
その結果、力の強い魔族たちはあの丸薬により 『力がみなぎる』 感覚を味わうことができたのだ。
だが実のところ、殺魔聖石自体は分解されることなく、体内に残り続け、蓄積されていく ――――
「だから、みんな喜んで、毎日かかさず飲んでいてくれたけど、それって体内に毒をためこんでただけ、っていうこと」
身体に致死量まで毒を溜めれば、いかに強力な魔族といえども、その心臓はやがて魔力を生み出せなくなる。
そして、魔力が尽きたとき。
彼らの心臓は、完全に止まってしまう ――――
つまりは、彼らが疑いもなく丸薬を飲み始めた段階で、近い将来、放っておいても死に至ることは確約されていたのだ。
その時がきた、そのタイミングでエルヴィラが魔王を斬ったのは、『力が全て』 の魔族社会において君臨するための方便である。
魔王を倒した娘、つまり最強。
「あ、あたしが飲んでみせたのはね?
どのケースにも1つ、歪んだ形の丸薬が入ってて、それには殺魔聖石が入ってない、ってだけの話だったんだよね」
「卑怯な…… それが…… 誇り高き魔王の娘のすることか…… 裏切り者……」
「知らないの? 力の無い者は、汚れなきゃ生きていけないんだよ。でもあたしは、それを恥と思わない。
誇り高いあなたの娘に生まれて良かったと思ったことなんて、一度もないし…… あ、それは違うか。
おかげで、ルイーゼやリュクス様に会えたんだもんね」
エルヴィラは、お腹を愛しそうに撫でた。
「リュクス様の子ども…… ここに、いるの。きっと、あたしと同じで魔力は無いわ。その上、半分は人間……
あたしはね、この子が、幸せに生きられる場所にしたいだけよ。この国を。
あなたが、魔族のためにこの大陸を取り戻したいと願ったのと同じようにね…… お父様」
「………………」
※※※※
カシュティールとアッディーラ。
遠く離れた2つの玉座の前で、同じ刻に。
魔王の赤い瞳から、光が、ゆっくりと失われていった ――――




