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幸せは、計略を超えて。~処刑された公爵令嬢の2回目は、悪霊王子とのハッピーエンド目指し、計略の限りを尽くして婚約回避いたします!~  作者: 砂礫零
3章:計略の行く末は

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31-2. 決着②

 神力を注ぎ続けた護符(アミュレット)は、鎖から解き放たれ、その姿を変える。

 手のひらに乗るほどだったお守りから、鋭い刃を持つ短剣へと ――――


 同時にルイーゼは、自らの全身にも神力を使った。


 神力による身体強化 ―― 辺境で修業していた日々、山間の家や畑を行き来するために否応(いやおう)なしに使っていた技を、ルイーゼは本能的に選択したのだ。


 魔王の精鋭たちが一斉にルイーゼに向けて魔力を放とうとしているこの局面において、生き残る可能性を増やすために。


 一瞬の後。

 彼らのてのひらから、膨大な魔力がほとばしり、少女の艶やかな黒髪が宙を舞った。


 ふわりと跳躍したその下で、密度の濃い魔力がぶつかり、爆ぜる。


 しかしその時にはもう、ルイーゼは玉座の結界に到達していた。


 神力の壁を壊そうと魔王がふるっている魔力で、結界が、激しく震えている。


 ―――― この中に、入ってしまえば……


 たとえ神力で強化された身体であっても、10秒もつか、もたないかだろう。


 ―――― だが、迷っている暇はない。


 ぐずぐずしていても、魔王の兵たちが背後から攻撃してくるだけだ。



 ぱりん。



 黒水晶が、またひとつ砕ける音がした。

 同時に、ルイーゼは結界の中に飛び込んだ。


 結界内を吹き荒れる魔力が、顔にも足にも腕にも襲いかかってくる…… 痛みよりも強い、やけつくような、しびれるような感覚。


(この感覚…… 知っています)


 1度目の人生の最後、毒を飲んだときに嫌というほど味わった。


 ―――― 死の苦しみは、痛みや熱などという生易しいものではない。


 全ての感覚が、奪われていくのだ。


 ―――― 身体を構成する全てが、無に近づいていく。


 こわい。

 どうしようもなく、おそろしい。


 ―――― それは、1度目の人生では、味わったことのない恐怖だった。


(それでも、今度は、あの時よりも、良いように思います……)


 前の人生のように、何もかもを自ら手放した挙げ句に、他人の意思で死ぬのではない。

 もしここで命を失ったとしても、それは、自身が選択し、精一杯に行動した結果なのだ。

 その選択が必ずしも正しいとは限らなくても、それは、全てを諦めながら死んでいくより、よほど良い……



―――― もっとも。


 ここで死ぬとか、冗談じゃないけど。



(わたくしはまだ、ザクス兄様にお会いしておりません……!)



 ルイーゼは、まっすぐに魔王の懐を目指した。


 両手で握りしめた短剣は今、火の神(ウォルク)国女神(カシュティア)の力が共鳴して、(まばゆ)いばかりに虹色の光を放っている。


「人間風情が」


 結界を破壊しようと暴れていた魔力が、一斉にルイーゼに向かう。

 

 同時にルイーゼは、その心臓めがけて一気に神炎の刃を突き刺し、両腕に力を込めて、短剣の柄をさらに深く胸にめり込ませた。



(ここで死ぬのは、魔王レグロ。あなたのほうでございます!)

 


 一瞬の、できごとであった。


 普通なら、ルイーゼが極限まで身体強化したところで、魔王が人間ごときに遅れをとることはなかったかもしれない。


 ―――― だが。


 普通でない状況を作るべく、ルイーゼはこれまで、エルヴィラとともに、計略の限りを尽くしてきたのだ。



「……………… っ」



 信じられない、というように赤い目を見開いたまま、魔王の身体が崩れ落ちた。


 それを見届けることなく ――――


 ルイーゼもまた、その場に倒れた。




(エルヴィラ様…… ザクス兄様……)





※※※※





 一方、その頃。

 魔族の国アッディーラでも、異変が起こっていた ――――



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― 新着の感想 ―
[一言] 自分の意思で生きる少女は美しいです。
[一言] やったか!?
[良い点] 計略の中に魔王との直接対決も含まれていたとは、これは良い意味での予想の裏切りですね~! いくら魔王が最強だからと言っても、一個体の生物として、逸脱しないレベルの強さというのも、ある意味リア…
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