表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

87/103

30-1. 正体①

「公爵様。失礼いたします」


「何をする! 私は公爵だぞ!」


 衛兵たちの選択は順当であった。

 確かに公爵も、彼らの上司といえば上司であるが、神殿に所属している聖騎士団を除き、全ての軍の最高指揮権は国王にあるのだ。

 つまり国王とその相談役、どちらを優先するかといえば、それは、決まりきったことだったのである……。


「国王の実の兄だぞ! そなたら平騎士どもが触れるでないわ ――――!」


「…………」


 わめくグンヴァルトの顔面に、衛兵のひとりがペッ、と唾を吐きかけた。


「こちらは、売国奴よりよほどマシな者だと、自負しておりますが」


「こら、やりすぎだ。貴人を辱しめてはいけない」


 衛兵をなだめた隊長の拳が、ストレートにグンヴァルトの頬を吹き飛ばした。

 よろける公爵の腹に、有無を言わさぬ膝が入る。


「隊長だって」


「これは、この方が我々カシュティールの騎士を辱しめたことに対する報復だ。ちなみに私は敬意をもって、いつでも騎士をやめる覚悟でこの方をお諌めしている……」


「あら。今やめていただいては、困りましてよ、衛兵隊長」


「ル、ルイーゼ……! 助けてくれ……! 本当なんだ、そやつは本当に、魔王なんだ……!」


 手を伸ばして懇願する公爵を、ルイーゼは感情を含まない眼差しで、眺めた。


 この期に及んでも、グンヴァルトに対して思うことは、何もない。

 確かに、実の父ではあるが…… 2度と諦めないと誓った今度の人生でさえ、ずっと、彼には何も期待できなかったし、こちらから働きかけようとも、思えなかった。

 そして、以前と同じように感情を閉ざして接してきた ―― そのせいだろうか。

 悲しみも、憤りすらも、感じない。


 目の前にいるのは、ただのゴミだった。


「…… 国王様にお見苦しいものをお見せしてはなりません。早く連れて行ってくださらないかしら?」


「はっっ」


「ルイーゼ、育ててやったのになんだ、その態度は……! ルイーゼ……!」


 抵抗しながらも、衛兵たちによってズルズルと引きずられていく公爵。

 その必死のわめき声も…… ルイーゼにとってはもはや、何の意味も持たなかった。



「さて、騒がせたな」


 魔王扮する国王が、玉座の上で足を組みかえた。


「陳情の続きを始めよう。次の者、前へ」


 どうやら彼は、なるべく周囲に疑われぬよう、徐々にカシュティールの支配を強めていく心づもりらしい。意外にも、周到なことだ。


 ―――― だが、そうはさせない。


「その前に、国王様……」


 ルイーゼは不可思議な笑みを口元に浮かべて前に進み出ると、きっ、と彼をにらみつけた。


「いえ、魔王レグロ。あなたも、消えなければなりません」


 周囲が再び、ざわめいた。


 ―――― いったい、どういうことだ……?

 ―――― 王太子までが、何を言い出すのだ?


 国王が無言で、口から黒い小さな塊を吐き出した。

 それは、魔王の力を封印していた殺魔聖石(デモン・マタンド)の塊…… 見る人が見れば、わかるだろう。

 歯に細工していたのですね、と、ルイーゼは呟いた。


 もっとも、多くの人々にとっては、その黒い塊は単なる小石に過ぎず、目の前の国王が魔王であるなどとは、未だ信じ難い話である。


 いったい国王は、不敬なことを言う王太子をどうするつもりか……


 固唾(かたず)をのんで見守る人々の前で、周囲を静めようとするかのように、国王が片手をあげた。


 ほかの者たちには、それは単なるジェスチャーに見えただろう。


 しかし、ルイーゼには、はっきりと感じられた。


 ―――― その手のひらから、目には見えない、高濃度の魔力が放たれたのが。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 隊長グッジョブ! かっこいい! かわかみみれいさんへの感想返信を見て、父ちゃんは、もしかしたらあったかもしれないルイーゼの未来だったり、とか安易な想像をしちゃいましたが、やはり同情心は微…
[良い点] さようなら、オトン。 最後まであなたらしいですね。 [一言] タイトル、変更しましたか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ