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幸せは、計略を超えて。~処刑された公爵令嬢の2回目は、悪霊王子とのハッピーエンド目指し、計略の限りを尽くして婚約回避いたします!~  作者: 砂礫零
3章:計略の行く末は

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25-2. 魔王②

「なぜ、わかった」


 今にも突き刺してきそうな魔王の眼差しに向かって、エルヴィラは堂々と言い放った。


「カシュティールでロペス(ダミアン公爵)に見せてもらったわ。殺魔聖石(デモン・マタンド)呪符(タリスマン)を」


 実際に殺されるのに比べれば、どんな目つきをされたって怖くない。


「魔力の強い人たちは気づかないでしょうけど、あの恐ろしい波動…… あたしには、忘れようもない。その気配が、したのよ…… あの人からも。

 カシュティールにしか鉱床がなく、一般には輸入禁止のアレを持ってるだなんて。あちらの過激派と結託しているとしか、考えられないじゃない」



 ありました、と倒れた男の懐を探っていた侍従から、声が上がった。手には、黒い小瓶がひとつ。

 エルヴィラが悲鳴を上げた。


「寄らないで……! 今にも死んじゃいそう……!」


 殺魔聖石(デモン・マタンド)は魔力の強い魔族であればその力をそぎ、魔力のない魔族であれば、触れるだけで死んでしまう、と言われている。


 魔王の侍従レベルであれば死ぬことはないのだろうが、彼らもやはり、怖いらしい。

 黒い小瓶の蓋は、おそるおそる開けられた後、すぐに閉じられた。


「間違いございません。殺魔聖石(デモン・マタンド)の粉末に、ごさいます」


「わかった」


 魔王がうなずくと、数人の侍従が素早く姿を消した。倒れた男の部屋を改めるためだ。


 (ほど)なく 「ありました!」 との報告とともに、黒い小瓶の詰まった箱が運ばれてきた。

 エルヴィラが前もって隠しておいたものだ。


 魔王の全身から、目には見えぬ魔力の波動が立ち上った。怒っているのだ。


「…… 城の者、全員の部屋を改めろ。すぐにだ。怪しい者は殺せ」


「はっ」


「…… ご苦労だったな、マルタ」


 侍従のうち数人が去っていくと、魔王は初めて、出来損ないの末娘に目を向けた。それはそうと、マルタって誰。


 エルヴィラは息を整え、姿勢を正して平伏しなおした。


「おそれながら、魔王様に献上したい品もあるんです」


「…………」


 魔王が眉をひそめた。

 お前ごときが、という気配をひしひしと感じる。

 ―――― 負けるもんか。


「こちらの丸薬です」


 エルヴィラはうやうやしく、黒玉で飾られた薬入れの入った箱を差し出した。


「あたしが魔力を得るために、カシュティール以南で採れる薬…… 辰砂、蒼龍石、魔女草(コキア)を混ぜて作りました」


 いずれも、アッディーラにおいては魔力が増すとされている、希少な鉱物や薬草である。


「…… 無駄なことを」


「はい…… あたしには、全く効きませんでした。けれど、ダミアン公爵によれば、魔力がある者が食べると魔力が増し、力が全身にみなぎるのを感じるとか……」


「ロペスが、か」


「はい。カシュティール滞在中、幾度もお会いしました」


 嘘ではない。ロペスが兄のダミアン公爵だと気づいたのは最後の1回だけだが、それまでに商人に扮装したロペスが、王太子からの紹介状をねだるため、エルヴィラのもとに日参していたのだから。


「そなた、呑んでみよ。そなたもだ」


 魔王があごをしゃくって、そばに控えていた侍従のひとりとエルヴィラとをさした。


「では、失礼いたします……」


 薬入れのひとつを取り、蓋をあけて歪んだ形の丸薬を取り出すと、エルヴィラはそれをひと息に呑みくだした。


 指名された侍従も、1粒選び、おそるおそる口にする。


「…………! こ、これは……!」


「どうした」


「力がみなぎってくるのを、感じます……! 今であれば、千の軍勢をも一瞬で倒せそうなほど……」


 エルヴィラのほうには、何も起こらない。ただ、羨ましげな目付きで侍従を見るだけだ。


「よし。その土産、受け取ってやろう」


 一瞬もたたぬうちに、丸薬の箱が魔王の膝の上に移動した。どうやら、気に入ったようである。


 ―――― 魔族は基本、徹底的に力が全てだ。力なき者が力ある者に逆らうなど無駄なことであり、あり得ないと信じ込まれている。

 だから、魔王もまた、必要以上に力無き者を疑うことをしない。


「カタリナ」


「はっ」


「侍女として仕えることを許す」


「ありがたき、幸せにございますっ…… 誠心誠意 「以上だ」



 エルヴィラが最後まで言い終わらぬうちに、魔王が片手を振る…… それだけで、這いつくばう小さな身体は、玉座の間の外に飛ばされていた。


 扉に刻まれた魔王の紋章をにらみ付けて、エルヴィラが思うことはただ1つ……


 カタリナって、誰よ。


 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 〜って、誰よ? と二度目の呟きが語られた時点で吹きましたw [一言] シリアスなシーンなのに、『マルタ』『カタリナ』と続けて呼ばれたエルヴィラが不備ですわ^^; 名前すら覚えられてないって…
2022/03/21 22:26 退会済み
管理
[一言] 自分が無条件で偉いと思っているから、人の名前覚えないのですね。
[一言] こっちのパパもろくでもねーな!!ww
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