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幸せは、計略を超えて。~処刑された公爵令嬢の2回目は、悪霊王子とのハッピーエンド目指し、計略の限りを尽くして婚約回避いたします!~  作者: 砂礫零
3章:計略の行く末は

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25-1. 魔王①

 魔力を高める作用を持つ烈晶石(デモン・スピネル)の巨大な岩山をくりぬいて造られた ―― ペルディータ大陸の最北端にある魔王城は、そうした特異な城である。


 滑らかに磨かれた、星がまき散らされた夜空のような冷たい床石。

 その上に、エルヴィラは直接ひざまずいて頭を垂れた。



「魔王様。ライサ・エルヴィラ、ただいま戻りました」


「…… ロペス・ダミアンと精鋭、1小隊まるまるが消されたようだ」


 紫の烈晶石(デモン・スピネル)でできた玉座に優雅に頬杖(ほおづえ)をつき、娘にはちらりとも目をくれずに(しゃべ)る男 ―― 魔族の国アッディーラの皇帝、通称 『魔王』 レグロである。『魔皇帝』 は 「なんかダサい」 ってことで、不採用になった過去があるそうな。


 炎のような赤い髪に瞳。雪のような肌に、精悍さと繊細さを併せもった男らしい色気の漂う美貌に、すらりと背の高い、しなやかな身体。

 エルヴィラが彼から受けついだのは髪と瞳と肌の色だけだが ―― 認知したのは単なる気まぐれと確信できるほど、かけはなれている。顔も、魔力も。



「あったことを申せ」


「はい…… 彼らは、あたしが、カシュティールの王太子に嫁ぐことが気に食わなかったようで……」


 エルヴィラは魔王の圧倒的な力の気配に震えながらも、事情を説明しはじめた。嘘は言えない。すぐに、見抜かれてしまうだろうから。


「襲ってきたところを、カシュティールの人たちの、聖剣と神の火で逆に倒されてしまったんです」


「…… それが、全てか?」


「はい。どなたに聞いていただいても、このとおりです」


 駆け引きとは、嘘を言うのではなく、持てる手札をうまく使うこと…… カシュティールでできた、友の教えである。

 知っていることの全てを(さら)す必要は、ないのだ。


 ―――― たとえば 『エルヴィラが蜘蛛糸でやつらを拘束したところをルイーゼ(ともだち)が一方的に燃やした』 などは、 「魔王の前では忘れておしまいなさい」 と、ルイーゼからは助言された。

 訓練すれば、都合よく健忘症を発症できるようになるそうな。



「人間と神族にしてやられたのが、気に食わぬが…… 勝手な振る舞いは処罰されるべきではある」


「まことに」


「…… だが、そなたが死んだほうが我々、魔族のためではあった。ダミアンは我が軍でも有用な将だが、そなたの替えなどいくらでも、いる。その点に気づくべきだった」


「はい…… 申し訳なく……」



 お前がそういうこと言うからだろ。おかげでためらいなくサックリ()ってもらえたわ。


 ―――― とか、思ってはいけない。まじで首切られる。それか、心臓刺される。


 エルヴィラは震えたまま、より低く、ほとんど()いつくばるようにして懇願(こんがん)した。



「罪を償うためにも、魔王様のおそばで、あたしを使っていただけませんでしょうか? どうか……」


「魔力のない者が、ふざけたことを」


「きっと、きっとお役に立ちます。その辺の虫を追い払う程度には」


 言うなりエルヴィラは半身を起こし、両腕をひろげて蜘蛛糸を操る…… 


 魔王のそばに控えていた侍従のひとりが、どさりと倒れた。


 ―――― 先ほど、帰ってきたエルヴィラを玉座の間に案内した男である。


 数人の侍従が、慌てて倒れた男を取り囲み、起こそうとした。


 すでに、こときれている。


 エルヴィラの蜘蛛糸に、心臓を突き刺されたのだ。


 蜘蛛糸を目にも止まらないほどの速さで操ることにより、一瞬だけ針のように鋭く、鋼のように強くする ―― エルヴィラがカシュティール国に滞在する間も研鑽(けんさん)を怠らなかった結果、新たに得た技であった。


「その者はカシュティールの反魔族過激派と結託してます。調べてみればわかるわ…… 毒を、持ってるから」


「ほう……」


 魔王の赤い瞳が、鋭く光った。


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