24-2. 帰国②
「自分でも、よく言えたな、って思うんだから…… 聞いても軽蔑しないでね?」
エルヴィラはなぜか、言いにくそうに口ごもった。
「ええ、伺っても、驚きも軽蔑も、しないことにいたします。……で、マルガリータ様の仲良し宣言には、なんとお返事を?」
「…… このあたしがよ? 『ええ、ぜひ』 ってね…… 自分でも信じらんない」
「まぁ」
ルイーゼは、目を丸くした。ほんと、エルヴィラらしくない。
「成長されましたのね…… エルヴィラ様」
「うん。リュクス様の形見は、まだ、すごく悲しくなっちゃうから見れないんだけど、やっぱり欲しかったから…… いつか子どもにも見せてあげたいし。
だから、ルイーゼ、あなたの真似をしてね、性格悪く行くことにしたのよ」
「あの方たちには、それが賢いでしょうね。けれども、エルヴィラ様…… わたくしには、いつまでも純真無垢なエルヴィラ様でいてくださいませ」
「気持ち悪っ」
くすくすとルイーゼは笑った。ザクスベルトがまだ姿を消したまま戻らない今、こういう気分になれることは珍しい。
(本当に、エルヴィラ様とお友達になれて良うございました……)
最初は、利点があるからこそ 『お友達』 として、取り込もうとした。
でも今は、それだけじゃない。
そのことが、ルイーゼには嬉しかった。
「マルガリータ様とは、手紙のやり取りをする約束、したから。あの女が何か変なこと言い出したら、あなたにも知らせるわ、ルイーゼ」
「ありがとう存じます、エルヴィラ様。とても助かりますわ。…… そうそう、わたくしからも、お約束しておりました、記念の品を差し上げとうございますの。よろしくて?」
「……あの、丘で言ってたのね? もう、できたの?」
「ええ」
ルイーゼがパトラに持ってこさせたのは、黒玉の指輪、同じく黒玉のビーズで縁取りされたエレガントなレースの手袋、それに木箱が2つ。
―――― 1つには黒い小瓶が10本ほど、1つには黒玉で飾られた丸い蓋の薬入れがやはり10個、詰められている。
ルイーゼのエルヴィラに対する心遣いが感じられる品々だった。
アッディーラではあまり知られていないが、太古の原始的な魔力を秘めた石である黒玉には殺魔聖石の効果を阻害する作用があるのだ。
「実は、いずれ使っていただきたく存じまして、例の計画をお話する前から、作っていただいておりました」
「…… 本当に、あなた性格悪い……」
「光栄でございます。…… ともかくも、お気をつけくださいませね。道中も、あちらでも……」
「言われるまでもないわよっ」
急に口調を改めたルイーゼに、エルヴィラは顔をしかめてみせた。
―――― 本当は、ずっと、この国にいたかった。けれども、リュクスが亡くなって、わかってしまった。
(あたしは、カシュティールでは 『魔族』 でしかないんだ……)
だから、ルイーゼの計画に乗ったのだ。祖国を、魔力が無い者が冷遇されたりしない場所にするために。
アッディーラへは 『帰る』 のではない。闘いに、行くのだ。
―――― 数日後。
エルヴィラを乗せた馬車は、数名の王族とルイーゼに見送られて、国境に向かった。