24-1. 帰国①
国王・王妃との養子縁組みの手続きと立太子の儀は、リュクスの葬儀より後10日ばかりの間に行われた。
ルイーゼはメアベルクのシェーン家の養女となっていたため、 『国王の養女になるにはルイーゼの戸籍は、いったん公爵家に戻すべき』 とアインシュタット公爵グンヴァルトは主張したが、問題にもされなかった。
カシュティールにおいて辺境伯の位は、侯爵に相当し、王家との関わりも深い。
次期国王が公爵家出身でなければならない理由は、何も無いのだ。
しかし、シェーン家の当主は泣いた。
「あねうえが立太子なんかしちゃったら、10年経ってもボクと結婚できないじゃないですか!」
ほんと、ごめん。
ともかくもこうして、ルイーゼは、聖女の後継かつ王太子として中央神殿と王城を行き来する多忙な日々を送ることになった。
そんな中、アッディーラ皇女であるエルヴィラの、帰国の日が近づいていた ――――
「あ、そこは開けないで。見ないことにしてるの」
「わかりました」
エルヴィラの顔がほんの少し陰ったのを見てとり、ルイーゼは部屋の隅に置かれたチェストを整理しようとしていた手を止めた。
久々の休日、離宮で、エルヴィラの帰国の荷物整理を手伝っているのだ。
侍女のパトラも一緒だが、主人たちの邪魔をせぬように離れたところで、メイドたちにせっせと指示を出している。相変わらず優秀だ。
―――― おそらく、チェストの中身はリュクスとの思い出の品なのだろう。
そうした品々は全て、リュクスの生母であるマルガリータに取られたのではないかと懸念していたが、そうではなかったようだ……
なんとなく、ほっとするルイーゼである。
「…… 数日前に、急にマルガリータ様が返してくださったのよ。リュクス様がプレゼントしてくれた宝石とか、全部持っていったのに」
「黙って見ていらしたのでしょうか? エルヴィラ様らしくないような気が、いたしますけど」
「うん…… あたし、お母さんいないから分からないんだけど…… お母さんって、そんなものかな? って。
子どもが死んじゃったら、きっと、その原因になった女の所に形見なんて残したくないんじゃないかな? ……って思ったら、何も言えなかったの」
「さぁ…… どうでしょうか」
ルイーゼは母である聖女リーリエを思い浮かべてみたが、よくわからなかった。
―――― あの母なら、ルイーゼが死んでも大っぴらには嘆かず、そして形見分けは公平に行いそうな気がする。
「人それぞれではないでしょうか」
「うん…… 返しにきてくれた時、そう思った」
「…… どういうことなので、ございましょうか」
「あの女…… たぶん、何か企んでるんだと思う。なんとなくだけど」
エルヴィラは虐げられ気味な育てられ方をしたぶん、人を見る目…… というか、野生の勘のようなものが発達している。
しおらしくリュクスの形見を返しにきて謝罪と優しい言葉をかけてくれたマルガリータに、はっきりと嘘くさいものを感じたのだ。
『同じ、愛する人を失った者どうし…… 私たち、仲良くしましょうね?』
リュクスが亡くなってすぐ、半狂乱でエルヴィラを責め、形見を全部取り上げた女が、いきなり態度を改めるなんて…… 絶対に、裏がある。
「それで、エルヴィラ様は? なんとお返事されたのでしょう」
「聞いて驚かないでよ?」
エルヴィラは手を止め、ルイーゼを見た。