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幕間~公爵と愛妾~②

 マルガリータはもともと貴族ではなく、場末の宿屋の娘だった。


 街で評判の美しい容姿を利用して、とある子爵の後妻に納まり、さらには国王の愛妾にまで登りつめた女性である。


 見た目からは想像もつかないような野心家ではあるが、頭のほうの出来はソコソコ、得意なのは娼婦から直接教わったと噂されている閨房術を含めた、男をいい気持ちにさせること全般である。


 そして、言ってはなんだが、随所にお下品なところが出る ―――― 国王によればそれがまた、かわいいらしいのだが。



「あなたはいいわよ、グンヴァルト。後継指名されたのは、実の娘だものね」



 そんなマルガリータであったが、グンヴァルトとは妙にウマが合った。


 国王の異母兄と愛妾、という微妙な立場どうし、何かと協力しやすかっただけではない。

 ふたりとも、根に抱いている怒りが同じなのだ。



 ―――― なぜ平民というだけで、貴族と同じドレスを着てはならないのか? 卑しいとバカにされなければならないのか?


 ―――― なぜ庶子というだけで、王位から遠ざけられるのか? 卑しいと蔑まれねばならないのか?



 口に出すだけでも、周囲から不道徳だと(そし)られ、反逆心ありとみなされそうなこの思いを、ふたりが語り合ったことはないが ―― それでも、言動の端々(はしばし)に、ちょっとした時に現れる目の色に、相通じるものがあることを、ふたりは出会って間もなく、理解したのである。


 かくして彼らは、色恋も遠慮会釈もなしにコッソリ逢い引きをしては悪だくみする仲となった。


 ―――― ザクスベルトの謀反事件も、そもそもの発端は、息子を王太子の座に()えたいマルガリータに、グンヴァルトが魔族を使うことを助言したことだったりする。



「けど、私はどうなるの! これから王子を生んだって、いったん決まったあの娘の地位を揺るがすのは、難しいわ……

 血筋だけでもアレなのに、その上に聖女ですって!? 国女神(カシュティア)など呪われるがいい……!」


「まぁまぁ、抑えて抑えて」


 グンヴァルトとて同じことを思ってはいるが、マルガリータが口にしてくれるから言わずに済むのである。


「国王陛下に、あなた様より長生きしていただくしか、ないでしょうなぁ……」


「ほんっと冗談じゃない! あんなヘタクソより長生きして、若い愛人に囲まれて死にたいのよ、私は」


「それはもう、あなた様のお美しさなら愛人も選び放題でしょう。僕も立候補しようかな」


「ふん……トシを考えなさい」


 まんざらでもなさそうな表情のマルガリータ。


 ―――― 確かに女はこの程度がかわいい、とグンヴァルトは内心で呟いた。


 見栄と保身と野心だけで動く女は、変に力を持ち知恵の廻る無欲な女より、よほど扱いやすい。


 たとえば聖女になった妻や、聖女と国王の後継という立場をアッサリ手に入れた実の娘のような女は、もうそれだけで失格である。


 ―――― 娘のほうは妻のようにさせぬために、その可能性の芽を徹底して摘み、優良な駒であれ、と教え込んできたというのに。



「嘘ではありませんよ、薔薇の貴婦人。僕は、不肖の娘などよりも、あなたのほうが大切です」


 グンヴァルトは再びマルガリータの手を取り、囁いた。


「ルイーゼが立太子したところで、我々庶子や身分が低い者は永遠に日の目を見ない…… それよりは確実に、権力を握れる道を選びましょう」


「…… 何か、案がありそうね」 


「簡単なことですよ」


 ルイーゼという駒は失っても、今の体制を崩すための駒は、グンヴァルトの手元にほぼ揃っている。



「まずは、あの、魔族の娘を取りこみましょう…… 彼女とて、王太子の婚約者という立場を失って、残念がっているに違いありませんからね」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 人間の価値基準が各々違って面白いですね~。 いや、気持ちは凄く分かるんですよ! だからと言って、ヘイトが和らぐわけではないんですけどね! よって、“ざまあ”希望です(笑)
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