23-2. 後継指名②
「なんと……」 「素晴らしい神力だ……」 「国女神の再来だ……」
呆然としながらも、口々に賞賛を紡ぐ貴族・王族・神殿関係者の面々。
「おわかりいただけましたでしょうか、皆様」
リーリエは微笑んだ。
真実は上手く組み合せることにより、じゅうぶんな説得力を持つ ――――
もともとリーリエは国王・王妃とともに、この葬儀の場でのルイーゼの御披露目を計画していた。
王家、貴族の主だった面々が集まりながら、それ以外の者には漏れる可能性の少ない冥神の森での儀式は、手間をかけず根回しを行うにはピッタリだからだ。
そこにタイミングよく、ザクスベルトがファドマールに聖剣を借りに来た、との情報が入ってきた。
ザクスベルトの復讐 ―― これをさっくりルイーゼの手柄として利用させてもらおうと密かに画策していたところに、ルイーゼ自身が神力を派手に使っている気配を感知したのである。
どちらのシーンを水晶に映そうか迷ったが、ルイーゼのほうを信じた…… それは、正解だったのだ。
聖女はルイーゼの手を取り、宣言した。
「わたくしは、聖女の後継に、メアベルクのマリア・アンナ・ルイーゼ・シェーンを指名いたします」
墓地が、しん、と水を打ったように静まりかえった…… そして。
「神殿は、これを認めております」
「…… 承知した」
枢機卿 ―― 王族の葬儀の際に派遣される最高神官の代理人 ―― と、それを受けた国王の声が、王家の人々が眠る白い墓石の上に重々しく響いた。
「なお、余、アンゼル・ジークフリート・エデルは、国王の後継にメアベルクのマリア・アンナ・ルイーゼ・シェーンを内々に指名するものとする……!」
「神殿はすでにこれを承知しております」
「聖女と国王、両方を兼ねるのは、国を守護し民を導く者として最適かと存じます。ゆえに、王妃はこれを認め、王位継承者の位を彼女に譲ります」
すかさず、枢機卿、次いで王妃が賛同の声をあげ、周囲のざわめきを押さえた。事前の打合せどおりの出来レースである。
「アインシュタット公爵。よろしいですね?」
「………… 賛同、いたします……」
王妃に問われ、グンヴァルトはうつむき拳を握りしめ、声を絞り出した。
彼は、事前に何ひとつ聞かされておらず、そのことひとつ取っても、異議を申し立てて良い立場ではある。
しかし、国王・王妃・聖女に枢機卿までがルイーゼを王位継承者として承認する姿勢を示している今、異議を唱えるのは、自身の暗愚さや秩序を軽視する姿勢を公に示すようなものだった。
公爵だけではない。
国王の愛妾マルガリータも、その他の貴族も ―― 後継者の指名争いを利用して権力を手にし、あるいは誰かに恩を売って見返りを得ようなどと目論んでいた連中は皆 ―― 見事に、先手を打たれてしまったのだ。
(ここは、いったん引くしかない…… だが、見ていろ。まだ、手はある)
(公爵と愛妾は不満そうだな)
(あちらが明らかに劣勢 ―― だが、見切りをつけるには早すぎるか)
(彼らの行動をチェックしておけば、いざという時に国王や聖女に恩を売れよう……)
―――― さまざまな思惑が絡む視線の中で、エルヴィラだけが、ただ心配そうにルイーゼを見守っていた。