21-1. 反撃①
魔族たちはじりじりと、ルイーゼとエルヴィラに詰め寄ってはくるものの、一定の距離で止まる。まるで、目に見えない何かに、阻まれているかのようだ。
「もしかして ――――」
「やはり、おわかりですのね。さすがはエルヴィラ様です」
おっとりとした口調に穏やかな微笑み。
しかし、ルイーゼの手の中に収まった護符を見れば、それがフェイクなのは一目瞭然だった。
まばゆく燃えるような輝きは、そこに神力が絶え間なく注がれ続けている証拠 ――――
「結界、なのね……」
「正解でございます。ですから、わたくしから離れず、動かないでくださいませね、エルヴィラ様」
リュクスが魔族に襲われて命を落とした段階で、ルイーゼは警戒を強めていた。
―――― カシュティール国内には、魔力を隠して潜む魔族がいる……。
ならば、常に身の周りを対魔族用の結界で覆えばいい。
―――― 神力を使える者は限られているため、ほとんど知られていないが、結界は 『礎石』 と呼ばれる石に神力を注いで作る。
使われるのは宝玉が多いが、その実、神力に耐える石さえあれば、どこでも結界を張ることができるのだ。
なお、結界の大きさや耐久性、性質といったものは、礎石そのものの持つ能力と、術者により注がれる神力によって決まる。
「わたくしが首にかけている、火の神殿の護符が今、結界の礎石になっております」
「火の神殿…… ですって?」
「ええ」
「それだったのかぁぁぁっ!」
エルヴィラが、絶叫した。
火の神殿の護符には、火の神力…… アッディーラの特殊な蜘蛛糸をも燃やす力が、こめられている。
―――― かつて、リュクスとの婚約の折、エルヴィラの蜘蛛糸に倒れたルイーゼが、実は生きていた理由。
そして、今ここで、糸が魔族たちに届く前に消失してしまう理由を…… エルヴィラは、一気に知ったのだった。
「お友達の証に、明かして差し上げました」
「あなた、本当に性格悪い。普通は先に言うでしょ、先に」
「それは失礼いたしました、エルヴィラ様。 …… では、そろそろ、力試しと参りましょうか」
ルイーゼは、首にかけた護符から手を放した。
ざわり、と魔族の間に、静かな動揺が走る。
―――― エルヴィラたちは知る由もないが、この瞬間、彼らの主人であるロペス将軍の命が断たれたのだ。
それは、
『我が許すまで、決して攻撃するな』
との命令が断たれた瞬間でもある ――――
彼らの手から一斉に、魔力が放たれた。
だが。
「ふっふっふっ…… 魔法の炎など、甘いわっ!」
エルヴィラの十指が操る蜘蛛糸が、それを鮮やかに打ち消していく。
火の神力が織り成す結界が解かれれば、特殊な蜘蛛糸を邪魔できるものは、何もない ――――