18-2. 魔族の将軍②
流血描写があります。
苦手な方は御注意ください。
ロペスは、楽しんでいた。
「さて、問題。もし確実に魔族を殺すなら、なに使う?」
「…… 殺魔聖石」
「正解! さすがは、王太子殿下だ。判断力はなくても、知識はあるねえ?」
殺魔聖石とはカシュティールで採掘される聖石である。
結界の礎石にもなっている黒水晶の同位体であり、強い神力を発するそれは、魔族にとっては劇薬も同然なのだ。
そこでエルヴィラは、やっと気づいた。
「―――― タリスマンが、ない」
ロペスの首元を飾っていた、黒い石のはまった呪符が、消えている。
「その通り! あれねぇ、魔力の弱い魔族が触れると即死なんだけどね? 力が強い魔族ならば、身につけると良い具合に魔力を相殺してくれる、というわけ。スグレモノだよね?
しかも聖石だから、神力はこもっていても、魔力のほうはカケラもなくてね? これを身につけていれば、対魔族用結界も、国境での検査も意味な…… ををっ!?」
「おしゃべりは、そこまでよ」
「乱暴だなぁ、ウチの妹は」
ロペスの手足に首に、ぎっちりと蜘蛛糸が絡みつく…… エルヴィラが、先ほど服を身につけながら手早く室内に張り巡らせた糸を、引いたのだ。
「あのね、妹さん? 我々が、婚姻外交なんてまだるっこしい真似をしているわけ、わかってないでしょ…… 魔王があくまで、平和的な南下と支配をお望みだからだよ? 人間どもが喜んで恭順するような、ね」
「平和的? 喜んで恭順? あるわけないじゃない。ここを、力のない者は見下される、あんたたちの国のようにはしないわよ!」
「お前が心配しなくても、人間の国では、すでにそうなっているだろう? 魔力の代わりに、金と身分がモノを言っているだけじゃないか。
我々が平和的にそれを利用することは、十分に可能なんじゃないかな?」
「うるさい!」
エルヴィラは、蜘蛛糸を操る腕を交差させ、ロペスの首をしめあげた。
目に見えないほど細い強い糸が、ギリギリと皮膚にくいこみ、あちこちから血がにじむ。
「うう…… うっ」
さすがのロペスも、整った男らしい顔を、苦しそうに歪める……
「苦しいのね? けど、すぐに終わるわ」
さらに腕に力を込める、エルヴィラ。
ざくり、と糸が太い血管を断つ音がして、血が噴水のようにほとばしった。ロペスが、もがき、うめく。
「うううっ ………………
………………
………………
……………… なんてね?」
不意に、エルヴィラの指と腕にかかっていた重みが消えた。
―――― 蜘蛛糸が、一瞬で失くなったのだ。
「な…… に……?」
呆然とするエルヴィラの目の前で、ロペスは 「やれやれー」 と肩を回しながら、首に手を当てた。
溢れていた血が消え、傷がみるみるうちに塞がっていく ――――
「まぁまぁ、だったなぁ。人間相手になら、充分に使えそうだよね。魔力なしなのに、よく研鑽したねぇ? ほめてやるよ」
「それは、どうも」
エルヴィラは、素早く、再び蜘蛛糸をロペスに投げ掛けた。
(次は、心臓ごと胴体をぶった斬ってあげるわ!)
だが、ロペスが面倒くさそうに手を振った、それだけで ――――
蜘蛛糸はあっという間に、霧散してしまった。
その隙に、エルヴィラはまた、次の糸を繰り出す ――――
―――― 絶対に、勝負を諦めたりは、しない。