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17-1. 叛逆の真相①

ザクスベルト処刑の回想回(リュクス視点)です。興味ない方は飛ばしてください。

 1年前、まだ兄のザクスベルトが生きていた頃。

 リュクスは、正統性に欠けた妾腹の王子 ―― つまりは、王家の厄介者にすぎなかった。


 国王は、女性としては、王妃よりも愛妾のマルガリータに心を傾けていたが、王家の安泰のために序列を重んじるだけの賢明さはあったのだ。


 愛妾の子でしかも次男であるリュクスは、常に兄…… どころか、兄の側近たちよりも下に置かれていた。

 父は同じでも、兄にはどうあっても手が届かない ――――


 せめて、兄が暗愚であれば、良かった。だが、兄は万事において優秀で、その上、人を惹き付けてやまない魅力を兼ね備えていた。


 明るく情熱的で、義にあつい…… 裏表のない性格で駆け引きが苦手という、王族にあっては致命的な欠点でさえ、周囲から愛される要素となっているような男。


 それが、ザクスベルトだった。


 ―――― 地位も、名誉も、栄光も、当然、兄ザクスベルトのもの。

 そして、その頃にリュクスが密かに恋していたアインシュタット公爵令嬢も ――――



「欲しいでしょう?」


 囁いたのは、母・マルガリータの元に出入りしていた魔族の商人。


 美肌効果の高い化粧水や、男を猛らせる甘い匂いの香水、肢体が半分透けて見えるほどの薄い絹…… そんなものを融通して、彼はマルガリータの信用を得ていたのだ。


「欲しいのでしょう? 私どもと組めば、簡単に手に入りますよ。何もかもが……」


 最初は相手にしていなかったリュクスだが、事あるごとに(そそのか)され、次第にその言葉に耳を傾けるようになっていった ――――


「未来の王太子よ、あなたがなすべきは、実に簡単だ…… ただ、ザクスベルトの筆跡と印章を手に入れるだけ……」


 表向きは仲の良い兄弟。いや、ザクスベルトのほうは処刑されるその瞬間までも、仲が良いと信じて疑っていなかっただろう。


 そんな兄の筆跡をまねて、リュクスは檄文(げきぶん)を書いた。


『国王は愛妾マルガリータを寵愛されるあまり、正統の王子である余、ザクスベルトを廃嫡し、庶子に過ぎぬリュクスを王太子に据えようとしておられる。正義と秩序死す前に、悪を討つべし……』


 こっそり借りたザクスベルトの印章が押された書簡は、アッディーラから入っていた商人たちを通して、王妃派の貴族、そして、ヴォルツ領のエルツ辺境伯に送られた。


―――― 辺境伯3家は建国当初から王家を支えてきた、国内でも伝統ある貴族である。


 いずれも、ぽっと出の愛妾になびくような不逞(ふてい)な輩ではなかったが、それぞれの政治的な立場は微妙に違っていた。


 3家のうち、ユィター領のツヴェック家は王妃派。メアベルクのシェーン家は、中立…… あえて言うならば、独立派。


 ―――― どちらも、敢えてザクスベルトに不利になるようなことは、しないだろう。


 おそらく、ツヴェック家は受け取らなかったことにしてザクスベルトを(いさ)め、シェーン家は、一笑に付してやはり無視する ――――


 王太子の反逆を国王に訴える役を担うのは、中立でかつ忠義心に(あつ)いエルツ家しか、いない。


 その読みは当たり、ザクスベルトは国王から詰問を受けることとなった。


 もちろん本人は否定した。


 しかし普段は温厚な国王がこの時には珍しく激昂したためもあり、ザクスベルトは城の一室に軟禁されることとなった。


 そして、謀反の真偽の調査が進められていた、その途中 ―― 国王の毒殺未遂事件が起きる。


 毒グモを国王の寝所に忍ばせ香炉にも毒を垂らした使用人はすぐに捕まり、わずかな拷問でザクスベルトの命令だったと自白。


 使用人には病気の父親がおり、その治療のためにザクスベルトが便宜をはかっていたのは周知の事実であり、だからこそ、その自白は信用された。


 加えて、謀反の首謀者がザクスベルトでない、という証拠は、いくら調査を重ねても、何も出ず ――――



 結果、ザクスベルト王太子は、反逆罪で処刑されるに至った。


 ―――― 享年、19歳。


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― 新着の感想 ―
[一言] さて、エルヴィラさんは愛しのダーリンの為にどう出るのか? リュクスは悪になれないくせに(悪気があまりないまま)素で悪いことをするのですねえ。 あー、一番対処に困る小物の悪だ……。
[一言] 謀略を臭わせる描写があったので、分かってはいましたが、只の“いいやつ”だったら擁護のしようもあったんですけどねー(笑) 劣化版ザクスみたいなやつですよね。←(リュクスが聞いたらキレる発言)…
[一言] やれやれ、こういうことすると、大概やった方も最終的にろくな目にあわないんですけどね。 兄ちゃん、怨霊というか悪霊になったしね。
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