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11-2. 計略と取引②

 それは最初から、計画に入っていたことだった ――――


 ルイーゼとて、エルヴィラを全く信用して公爵邸に招き入れたワケではない。

 魔族のものの考え方は、知識として多少知っていた。それに、王妃のお茶会での、エルヴィラの燃えるような嫉妬心を思い出すにつけ…… いつかは殺そうとしてくるだろう、と予測していたのだ。


 いつか ―― それは、エルヴィラにとって、ルイーゼの利用価値がなくなった時。

 つまり、リュクス王太子とエルヴィラの婚約が成立した時、だ。



 ―――― もしエルヴィラがルイーゼの殺害を実行するならば、それに乗ってみせる利点は、2つあった。


 1つは、ルイーゼが公に死ぬことで、公爵令嬢などという窮屈な身分から抜け出してしまえること。

 そしてもう1つは、父のアインシュタット公爵のやる気をそぐことである。


 ―――― 公爵はルイーゼを使って、王室との関係をより強固にし、自らの発言権を増すことを目論(もくろ)んでいたが、エルヴィラの登場でそれが無駄になってしまった。

 このまま手駒(ルイーゼ)が生きていれば、公爵は必ずエルヴィラを害して、ルイーゼとリュクスの婚約を進めようとするだろう。


 ならば、手駒(ルイーゼ)はサックリ死んでみせたほうが良い ――――


 そう計算したルイーゼは先日、聖女に計画を話し、中身のない棺での公爵令嬢の葬儀を進めるよう協力を頼んだのであった。


 ―――― 偽装とはいえ、実の娘の葬儀である。

 しぶるかと思いきや、聖女はあっさり賛成した。


「ちょうどいいわ。ほら、ルイーゼもどうにか、神力が使えるようになったでしょう?

 だから、実家(ユィター)のほうで、聖女後継としての実地訓練をしてもらいたかったのよね。

 死んだことにすれば、お父様への言い訳にも悩まず、期限も気にせず修行できちゃうのではなくて?」


「ええ、お母様」


「では、決まりね」


 ―――― そんなわけでエルヴィラに殺された後のルイーゼには、母方の実家である辺境領での別人としての生活が用意されているのだ。



 しかしそれだけではまだ、準備不足。

 王城内にも、ルイーゼが倒れた後に 『死亡』 を演出してくれる協力者が必要だ。


 そこでルイーゼが目をつけたのが、リュクス王太子。

 取引を持ちかけやすい上に、黒を白と言っても怒られない権力もある。まさに、適任だ。


 ―――― ルイーゼは、王太子が婚約解消を相談してきた際に、彼に今後の方策を耳打ちして伝えた。


「婚約発表後にもし、わたくしが倒れましたら、死んだ、ということにしてくださいませ。

 そして、わたくしを棺に入れ、中央神殿まで送ってください。あちらでの受け入れの手筈はすでに、整っておりますから」


「ちょ、いきなり、どういうことなんだ」


「そうすれば、王太子様とエルヴィラ様の間に、障害はなくなるはずでしょう?」


「だからといって、ルイーゼがそこまですることは、ないよ」


「いいえ。良い機会と存じております。わたくし、父や婚約者の都合で右往左往せねばなりませんことに、疲れましたから」


 当然、リュクスは最初のうち渋面を作って反対した。


「だが、身分や後ろ楯を捨てて、どうやって生きていく気だ?」


「それを明かすつもりはございません。それに、リュクス様がご心配なさる必要も……」


「貴女は僕の従妹だ」


「そのような理由で気にかけていただいても、迷惑なだけでございます」


「僕は…… それほど、貴女に嫌われることをしているのだな」


 いえそれほどでも、とルイーゼは内心で応じた。


 婚約解消については、むしろ、ありがとうと言いたい。

 それも、急発生したアッディーラの姫への恋心に浮かれているのかと思いきや、『嫌われることをしている』 自覚があるとは、まことに素晴らしいではないか。

 バカから少々格上げしてあげても良いくらいだ。


「お気になさらないでくださいませ、リュクス様……」


 ルイーゼがこの王太子を本気で嫌いになるのは、これから先の、未来のことだ。

 ―――― もっとも今回の人生では、直接のきっかけとなる事態は回避できそうでは、あるけれど。







「―――― つまり、わたくしは公爵令嬢をやめることにいたしましたの。そうして、リュクス様に協力していただき、宮廷医を言いくるめて、死にました、ということに」


「それ、あなたが生きてる理由になっていないわ。だって、わたしは確実に 「しっ…… お静かになさって」


 だって、わたしは確実に、あなたの首を絞めたのに。

 そうエルヴィラが言い切る前に、ルイーゼが止めた。


「本当に、エルヴィラ様をこの宮廷に残して逝くのは、気掛かりでございます。素直で正直すぎていらして」


「なにそれ嫌味?」


「だって、エルヴィラ様。

 今だって、わたくしたちの会話を、どなたかが聞いて何かに利用しようとなさってるかもしれませんよ?

 けれど、宮中の全ての方を蜘蛛糸で操るのは、いくらエルヴィラ様でも無理でしょう?」


 エルヴィラは無言で、ルイーゼをにらみつけた。


 (この女、何を知ってるの……!?)


 ―――― この時、エルヴィラはすでにルイーゼの術中にハマっていたのである。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱこの世で最強なのは、クレバーな人ですよね、うんうん( ˘ω˘ )
[一言] なーるーほーどー! 何を忘れているのかと思えば、アインシュタット公の思惑を忘れていましたよ……。 おかげでようやく構図が見えてきました! 王子と姫は……、冷酷になりきれないあたりが御し…
[一言] 「ルイーゼ、これで良かったのか?」というセリフ、リュクスのものだったんですね! 誰のセリフか自信がなくて、ザクスかな? とも思ってたんですよ。 なかなかの役者ですね(笑)
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