1-1. 再会 ①
はっと気づくと、夕暮れだった。
黒いドレスに包まれた腕の下にあるのは、沈もうとする日の光に赤く染まった石。顔を上げれば目の前では、森の木々が暗くざわめいている。
ふり返れば、点々と白い石碑が並び、中央に置かれた大理石の台座には、大きな水晶が、かすかな夕日を受けて静かに輝いていた。
(冥神の森……)
―――― 死後、王族の墓場に打ち捨てられたのだろうか。
一瞬そう考えて、あり得ないことに気づいた…… 死体のまま目が覚めたとしたら、それはゾンビだ。さすがにごめん被りたい。
(きっとここが、 『永遠の国』 なのでしょう…… なぜわざわざ、黒いドレスに着替えたのかが謎ですけれど)
ここが死後の世界だという何よりの証拠は、今、ルイーゼの髪を優しく撫でてくれている青年。
―――― ルイーゼが処刑された2年前に、謀反の罪に問われて死の杯をあおいだ父方の従兄、ザクスベルトもと王太子である。
幼い頃から表情に乏しく暗かったルイーゼを、なぜかよく可愛がってくれた人だった。
短い銀の髪に、強い意思の宿るくるっとした藤色の瞳。忠犬のような人懐こい笑みに出会った人は皆、つられるように笑顔になっていたものだ。
学問に武術に並外れた才を発揮しながらも決して驕ることなく、人望の篤い青年で、やや単細胞で直情径行なきらいがあるが、そこがまた周囲に愛されていた。
謀反の罪で捕らえられた時も、誰もそれが真実だとは考えていなかった…… ただ1人、父である現国王を除いては。
国王は王太子謀反の知らせに、普段の穏やかさや賢明さを置き忘れたかのように怒り狂った。
すぐにザクスベルトを捕らえさせて審議にかけたが、その審議中にまた、国王の毒殺未遂事件が起きた ――――
犯人はすぐに捕らえられたが、その口から 「王太子の命令」 との自白が出たために、ザクスベルトの罪は確定してしまった。
何者かが王太子をハメたのであろうことは明白だったが、真相を暴きザクスベルトを救おうと奔走していた家臣は、次々と謎の死を遂げた。
その陰には魔族が暗躍していた、と噂もされたが、結局真相はわからぬまま ――――
ザクスベルトは王太子の位を剥奪され、処刑されたのだった。
―――― 彼の死は当時、感情など失くしていたはずのルイーゼにさえ少しばかり痛く、何かが欠けたような気持ちにさせられたものだ。
その欠乏を埋めようと、冥神の森の隅にひっそりと建てられた王子の墓を、ルイーゼはよく訪れていた。
まさか死後の世界まで、そのイメージになるとは思っていなかったが。
「ザクス兄様、お久しうございます。お出迎えいただけるとは、光栄です」
髪を撫でていた冷たい手をそっととり、挨拶をすると、藤色の瞳が驚いたように丸くなった。
表情が、凍りついている。
【まさか…… 俺が視えるのか、ルイーゼ?】