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7-1. 王妃のお茶会①

 秋の初めのどこまでも高く澄んだ空の下、そこここに野の花が群れ咲く王妃の庭 ――――



「エルヴィラ様、こちらはわたくしの義理の姪にあたるルイーゼです。ルイーゼ、こちらはアッディーラの皇女ライサ・エルヴィラ様」


「初めてお目にかかります、エルヴィラ様。アインシュタット公女、アンナ・マリア・ルイーゼにございます。どうぞルイーゼとお呼びくださいませ」


「……」


 お茶会に先立ち、王妃直々にお互いを紹介されたルイーゼとエルヴィラ。


 ルイーゼが完璧な淑女の礼を取って挨拶をしたのに対し、エルヴィラの方は無言でうなずいただけだった。

 隣に立つリュクス王太子に密着せんばかりに寄り添い、ルイーゼを見上げる赤い瞳は敵意を込めて燃えるように光っている。


「では、あとはお若い方々でごゆっくりなさってね」


 王妃はさっくりと、アッディーラの姫を姪と義理の息子に任せ、早々に向こうの方の木陰へと退いていった。

 王妃としての義務上 『魔物姫』 をお茶会に呼びはしたが、彼女を自らもてなす気はないのがミエミエである。


 そして、リュクス王太子もまた、エルヴィラの方をちらりとも見ず、ルイーゼにばかりデレデレとした顔を向けていた。


「今、エルヴィラ様に僕の婚約者がいかに美しく優しく気高いか、聞いていただいていたところだよ、ルイーゼ」


「まぁ。それはさぞ、退屈でいらしたでしょう、エルヴィラ様」


 リュクスの接客ぶりの(ひど)さに、ついイラッときてしまう、ルイーゼ。


 ―――― 王妃が、魔族をもてなす気になれないのは仕方ない。


 なぜなら、ザクスベルト王子が内乱の黒幕とされ処刑になった陰には、魔族の暗躍もあったと噂されているのだから。

 実の母であれば、魔族に含むところが全く無い、というほうがおかしいのだ。


 ―――― だが、王太子までがアッディーラからの客人を半ば無視して、非公式の婚約者にデレるのはいただけない。

 ルイーゼ到着前になされていたとかいう会話内容に至っては、上品が身上(しんじょう)の公爵令嬢でも 「バカなのでしょうか」 と言ってしまいたくなるレベルである。


 ―――― 出会ったばかりのエルヴィラが、いきなり距離を詰めてきたことに驚き、とっさに予防線を張った、という解釈も、できないことはないが……


(社交辞令も忘れていらっしゃるとは…… 睡眠不足でしょうか?

 ※意訳 : 社交辞令もロクにできないのならば、引っ込んでお昼寝でもしていらっしゃればよろしいのに)


 これまでに感じたことのなかった類いの苛立ちを、ルイーゼはなんとか、笑顔に変換した。


「気の利かない従兄(いとこ)で、ごめんあそばせね、エルヴィラ様」


 さらりと 『まだ正式な婚約者ではない』 とアピールしてみたのだが……


 エルヴィラの赤い瞳からは、敵意が全く、消えてくれない。


「…… あんた、邪魔よ。あたしはリュクス様とお話がしたいだけだから、どっか行ってくれる?」


「それは失礼いたしました、エルヴィラ様。

 けれど、もう少しだけ、お話させてくださいな? せっかくこうして、お会いできたのですもの」


「あたしは別に、あんたと会いたくなんて、なかったわ」


 ルイーゼは知らないが、エルヴィラはリュクス王太子を()としたあかつきには、ルイーゼを殺す気満々である。

 仲良くなる必要性など、全く感じてはいないのだ。


 そんなエルヴィラの手をリュクス王子はそっと取り、(なだ)めるような視線を送った。


「エルヴィラ姫。貴女の気持ちは尊重したいところだが、せっかく年齢の近い王族どうしなんだ。3人で、もっと親しく語りあおうじゃないか」


 リュクスとしては、会うなりなぜか一触即発な雰囲気になった客人たちを調停しているつもりなのだが。


 この時、図らずも、エルヴィラとルイーゼの心の声は、ぴったり重なっていたのだった。


―――― 気持ちの尊重って、ナニ。



2021/08/09 誤字訂正しました! 報告くださった方、どうもありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[一言] エルヴィラはとりつく島がない状態ですか。 ルイーゼはどうあるべきか。 ですね。 リュクスはどうでもいいような気がしてきました。
[良い点] >「気の利かない従兄で、ごめんあそばせね、エルヴィラ様」 ↑ エルヴィラからしたら、勝ち誇ったような嫌みにしか聴こえない件! そしてルイーゼからしたら、「以前より鼻息荒くなってて怖いんで…
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