34-3. 現在、過去、未来③
数日が、聖女の葬儀と新しい聖女の任命で慌ただしく過ぎていった。
カシュティール国王とアッディーラ皇帝の会談が再び行われたのは、7日後のことである。
そこで、カシュティールとアッディーラは、休戦状態を維持する一方で、両国間の通行・通商を、特例を除き全面禁止することを正式に決めた。
アッディーラ皇帝エルヴィラは、休戦ではなく講和を望み、両国が平和的な関係を築くことを主張したが、それはカシュティール国王ルイーゼによって、あっさりと却下されたという ――――
「もし、カシュティールとアッディーラ間が平和になり、魔族が脅威でないと大陸中に知れわたれば……
何が起きるか、エルヴィラ様はご存知でしょうか?」
ルイーゼは、エルヴィラの赤ちゃんに向かい、『いないいないばあ』 の仕草を繰り返しつつ、問いかけた。
「…… 何が起きるっていうのよ」
「カシュティールの南の小国たち…… 今はカシュティールを対魔族の砦、大陸の守護者と崇めている国々が、カシュティールの豊富な資源を狙って争いを起こすでしょう。
大義名分は…… 魔族に日和った裏切り者国家を討伐、といったところでしょうか」
「なんなの、それ」
はるか昔に魔族のものだった大陸を取り戻したい。その意地とプライドだけで何百年も侵略を続けたアッディーラ人には、人間の欲深さはわからない。
「ですから、アッディーラには永遠に悪役でいていただかなければ…… よろしくお願いいたしますね、エルヴィラ様。
どうか、これからも、大陸中の人間たちから散々、嫌われてくださいませ」
「ちょっと、本人に向かってそういうこと言う!?」
「あら。そちらのほうが、おそらくはお互いに安泰でございましてよ。
それにわたくしは、エルヴィラ様のことはお友達と思っておりますから、なんら問題ございません」
「今さらだけど、あなた、本当に性格悪い!」
「だって、2度目でございますもの」
ルイーゼは微笑み、赤ちゃんのぽよぽよと丸いお腹を撫でた。
―――― 人生を繰り返しても、全て思いどおりには、ならなかった。
亡くならなくて良い人が亡くなり、唯一の望みさえ叶わず…… その代償のように、生きている今がある。
それでいい、とルイーゼは思った。
―――― ひとりで過ごす夜などは、失ったものを、得られなかったものを嘆いてしまうこともあるけれど、それでも。
今度の人生は、どんなに手を汚しても、どれほどのものを失おうとも、諦めずに、精一杯生きたのだ。
いつか 『永遠の国』 でザクスベルトや母に会った時には、胸を張って報告できるだろう。
そして、望みの全てが叶わなかったとしても …… そのかわり。
守りたい、と、健やかであれ、と、願わずにいられない生命が、目の前にある。
それだけで、じゅうぶんだ。
「もしこれから2度とお会いできなくても、あなたがたがこの世界のどこかで生きておられると思うだけで、わたくしは希望が持てます。
ですから、どうか、生きていてくださいませ。そして、できれば、悲しいことや苦しいことがありましても、跳ね返せるほどに、幸せに……」
「言われるまでもないわ! あたしはね、今度こそ、そうなる、って決めてるのよ」
「期待しております、エルヴィラ様」
ルイーゼが白くやわらかな頬を優しくつつくと、赤ちゃんは声をあげて笑いだした。
周囲の大人たちがつられて微笑むなか、幼子の無邪気な笑い声は、空気をやわらかく、いつまでも震わせていた。
生きていて。そして、できれば、幸せに。
―――― すべての生命は、同じ願いでつながっている。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
この物語も、次回、エピローグ3話で完結です。
さて、ラストに先立ちまして、読んでいただいてる皆様に、御礼をば。
(ラストでは雰囲気壊したくないので書きません。ご了承願います)
ブクマ、応援★、そして、ハイペース更新にも関わらず、たくさんの感想をくださった皆様、誤字報告くださった方、どうもありがとうございます!
誤字報告お礼できてないページもあってすみません!
とっても励みになってます!
めっちゃくちゃ感謝です!
では、引き続きエピローグ、お楽しみいただければ幸いです。m(_ _)m