閑話3 ~ 近衛騎士たちの目からウロコ ~
この閑話で完結です。
俺はナギ・トルタ。冒険者上がりの近衛騎士、やってる。
正直、近衛騎士は俺の性格に、合わない気がしていた。でも、ガトランやフィリクスと別れて、独りで冒険者をやるのもつらいから、近衛騎士団に、入った。
思った通り、俺には無理だと思う日が続いてて、冒険者に戻ろうかと思ってた。
そんなとき、王太子殿下から俺たち3人に、声が掛けられたんだ。
「弟のユリウスが『東の魔の森』に行くんだけど、キミたち、付いていってくれないか?」
ユリウス王子、って、まだ5歳の子、だったよな。そんな小さい子が、『東の魔の森』に入る? 何かの冗談だと、王族としてのお遊びかと思ったんだが、違った。
一番最初の顔合わせの時に、まず驚かされた。
何せ、近衛の装備ではなく冒険者の服装で、と言い出したのが、かの王子だったから。
『東の魔の森』は、冒険者時代に俺たちのメイングラウンドだった。だからこそ、あそこの怖さもわかっていたし、対処の仕方もある程度覚えている。冒険者の格好なら、多分、そう苦戦しないはずだ。
それはあとの2人もわかっていたし、理屈としてもあっていた。でも、あの王子に、そんなことがわかるとは、思えなかったんだ。
まあ、ガトランたちもそのほうがいいから、すんなり決まったんだが、何より、冒険者としてあの森にまた行けることが、俺はうれしかった。
ただ、出るときに陛下が伝えた言葉。
『ユリウスとあの護衛達であるが・・・お前たちが思うより強いし、規格外であることを覚えておけ。本人たちに他意はないからな。頼むぞ』
強さと共に、『規格外』・・・と言われた意味が妙に俺の心にひっかかった。
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まったくもう、あの人たちの強さったら一体何なんだよっ!
『東の魔の森』に入ってからここまで、俺らが居る意味あったのかぁ!?
思わず口に出して怒鳴ったら、あの黒ずくめの・・・カイン、だっけ?・・・あいつが、目にも止まらない速さで俺に刃を突きつけてきやがった。
それだけなら俺だって結構な修羅場をくぐってきたんだ、驚きもしないけどさ・・・一緒に吹き付けてきた殺気にはビビってしまった。あの時はこのまま切り殺されると思ったよ、ホント。
一気に頭が冷えて。
で、気づいちまった。俺、王族に楯突いたんだ、って。
元々、冒険者から近衛になるときだって、今の王様から『ほかに人目がない時なら、砕けた話し方でも構わぬ』とお墨付きを得られたからこそ、窮屈な城勤めを承諾したんだけどよ。
王族に反抗、なんて事やらかしたら、即、クビ・・・いやいや、処刑されても文句が言えないんだよな。俺がやらかした所為で3人ともに罰を受けるなんてことになったらどうすりゃいいんだ?
口だけは強気発言しているけど、もう冷や汗ダラダラだった俺の前にナギが出てきて、土下座をやらかした。
お、おおお前っ、何してるんだよぉぉっ!!
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驚愕した。動転した。感動した。
自分は今、この3つの言葉を同時に味わっている。何故って、基本無口、話す言葉は最低限、意思表示は頷きと首振りで終わらせるナギが、王子の前に土下座して長文を発しているからだ。
フィリクスがキレて暴言を吐いた後だけに、単純に感動だけを味わえないのがつらいところだが。
ここへ来る前、陛下からも注意を受けていたというのに、見た目で侮ってしまっていた。いや、冒険者として培った自分たちの経歴を過大評価していた、と言った方が正しいのかもしれない。
『東の魔の森』を自分たちほど知る者はいない、だから、たとえ王族であっても、自分たちを頼ってくるに違いない。そう驕っていたのが見事に外れたのだから。
この王子と護衛達なら、自分たちのサポートなど必要としないだろう。いや、これまでのことから見ても、邪魔にしかならないはずだ。それをナギもわかったうえで頼んでいる。懇願している。
あの、傍から見ると傲岸不遜としか見えない、唯我独尊のナギが・・・!
しかも! しかもだ!!
ナギの懇願を受けて、王子が問いかけてきた。
『わかった。ここから先は任せよう。で、あとの2人はどうする?』
あれだけの暴言を受けて、それでも謝罪を受け入れる懐の深さ、自分たちに役割を振ってくれる機転のきかせ方。
あの王子は、俺たちの予想をはるかに超えた・・・ぶっ飛んだお人だった。
うおぉぉ~~~っ、この感動、どうすりゃいいんだ~~っ!?
あの王子に、自分のすべてを捧げても、悔いはないっっ!!
ようやくここまでこぎつけました。
お付き合いいただいた方、皆様に最大の感謝を。
ありがとうございました!




