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第96話 トラ転王子、過去の亡霊と出会う(6)

「これがアケンドラ帝国の最期であり、余が国王となった実態だ。いずれギルバードにも話して聞かせるつもりだったが、ちと早くなったな」

「陛下、いえ父上、聞かせていただいてよかったと思いますよ。何しろ、どの史書を見ても納得がいかない反乱でしたからね」


 ギル兄さまが笑顔で伝える。そうだな、オレが疑問に思うくらいだ、優秀な兄さまならとっくに気づいていたんだろうな。


「そうか。そういわれると少しは気が楽になる。それにしても、あの剣が『瘴気』の元になるとはな・・・」


 うん、立派な剣だったもんな。思い入れが強かったんじゃないんだろうか。


「ユリウス、そして、護衛の二人。今回の件、改めて礼を言う。よくやってくれた」

 座ったまま、父さまは軽く頭を下げる。それは王族のトップたる人間が示しうる、最大の謝辞だ。


「世界樹様の言われたとおり、あのまま放置すれば大変なことになっていたであろう。この段階で止められたことは僥倖だった。余の後始末を押し付けた形になってしまったこと、すまぬ」


「父さま、それは無しです。ボクはアケンドラ王国の王子として、出来得る限りのことをやりました。それが父さまの役に立ったのなら、幸いです」

「ユリウス・・・ありがとう」


 そう言ってくれるのが一番。頑張った甲斐があったよ!




 その後、持ってきたザクトロンティラスとダイラスワッドの魔石をどうするかの話になり、引き渡す場所を調整した段階で時間が切れた。残りはすべて二人に丸投げするつもりだったのに、『また時間を調整するから残りの話はその時に、ね』と、妙に迫力のある笑顔で言われたら逆らえない。


 し・か・も! 兄さまだけじゃなくて父さまもニンマリしていたから・・・うん、オレに拒否権はないんだよ、最初から。





 そのあと迎えてくれた母さまにはもみくちゃにされて泣かれてしまったし、その反動からかぴったりくっついて世話を焼かれたのは・・・嬉しいやら、恥ずかしいやら。


「大変だったわね、ユリウス。今日はわたくしと一緒にお茶しましょう。『魔の森』がどんなのだったか教えてほしいわ」

「え、あの、母さま、そ、そんな、話すほどの事も・・・」

「うふふ、楽しみだわぁ。ミリィ、フラウ、準備お願いねっ」


「「かしこまりました」」


「いやあの、母さま?」

「そうそう、実家へも連絡しないと! ユリウスが大活躍したのよ、ってお父様や皆にも伝えないとね! さっそく手紙を書かなきゃ、あ、でも、ユリウスと離れたくないわ~」

「か、母さ、ま、その、捕まえて、なく、とも、うぷっ」


 話している間も頭をぐりぐりされて、挙句に抱きしめられ・・・今ココ。

 ううう、母さま、天使たちを産んでからまた豊かになりましたね、胸が。うれしいけど、息が、苦しい・・・


「お方様、その、少し手を緩められた方が」

「坊ちゃんが痙攣してるにゃあ」

「あらあらまあ、ユリウスったら、このくらいで気絶してちゃ駄目じゃない。陛下はもっと時間かかったわよ?」


 母さま、それ何の情報? というか、5歳児に何を頑張れ、と?





 その夜。

 オレは金環に意識を集めた。


(・・・ユグじい・・・聞こえるか?・・・)

(『流れ人』の王子、か。聞こえとるよ。連絡してきたという事は、終わったかの?)


(ああ。『東の魔の森』にあった『瘴気』の煮凝りは消滅させた。あんたの言う≪魔力喰らい≫の能力で消したよ)

(うむ。こちらでも確認しておるよ。大きな力の偏りが無くなったことは喜ばしい事じゃ。これでしばらくは平穏になるじゃろうて)


(前に言ってた『魔王』の居場所、分かったのか?)


(済まぬが、まだ特定は出来ておらぬ。どうも、境界付近で揺れておるようでのう、こちらでも掴めんのじゃよ)

(境界で、揺れてる・・・? どういう意味かな?)

(・・・今はまだ、許容範囲にとどまっておる。そういうことじゃ)


(・・・・・・)


(今は体と心を休めておくことじゃ。遠からず、次の問題も浮き上がるじゃろう・・・)

(あぁ? なんだって!? ユグじい!)


「くそ、逃げられた、か」


 念話を切られたことに舌打ちが出る。どうも何かを隠しているようで気持ちが悪い。世界の均衡のためかもしれないが、オレの心の平安も考えてほしい。


「ともかく、これで魔獣の発生は抑えられた、かな?」


 ここ暫くは忙しすぎて、天使たちの相手をしてやれなかったんだ。

 ようやく、あの癒しの時間に戻れるな。

 オレは笑みを浮かべて、寝台に寝転んだ。




いつも読んでいただき、ありがとうございます!

本日はあと1話、閑話を投稿した段階で完結にします。

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