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第93話 トラ転王子、過去の亡霊と出会う(3)

 うまく説明できたと思うんだけど、相変わらず父さまと兄さまの顔色がおかしいな。オレ、何か忘れてるんだろうか・・・?

 あ、そうだ、素材のことで言い忘れてたんだ!


「で、ですね。ダイラスワッドは魔石だけにして持ってきたんですが、ザクトロンティラスは出来るだけ使える部分を残したいと聞いたので、大きく解体して持ってきてます。それを彼らの褒賞に使えないですか?」


 廊下で会ったあの脳筋コンビを脅かすのにも使ったしね。お役立ちだ!


「な、なるほど・・・ギルバード、褒賞はいったん棚上げにしようぞ。それよりも先にユリウスの話を聞いてからの方が」

「わ、分かりました・・・はあ、規格外だとは思ってたけど、それでも斜め上だよ・・・」


 ギル兄さま、ため息ついてるけど、幸せが逃げちゃうよ?

「キミにだけは言われたくないね」


 あうう~、ま、またやられた・・・

 カインとミャウは後ろで噴出してたな。何でや!?




 それから紅茶を飲んで仕切りなおす。


「で、ユリウス。『瘴気』の煮凝りの件だが・・・」

「はい。そのことですが」

 オレは、感情の大元が『剣』であったこと、すべて消滅させたことを伝えた。


「剣、か。確かに、素材によってはかなりの力を発揮できるであろう」

「色からするとミスリルみたいだね。状態保持の魔法が掛けられたりしてると、半永久的に持つんじゃないかな」


 父さまと兄さまはそう判断したんだ。けど、オレが聞きたいのはそこじゃない。


「『瘴気』は理不尽な死で生を絶たれた人の魔力が変わったもの。だから意思疎通が出来ないと思ってましたけど、この剣からはある言葉が漏れてました」

「言葉が?」

「はい兄さま。音が反響したように割れてて確かじゃないんですけど、『死ぬのか』『余は悪くない』そして『シャスラン』と聞こえました」


「っ!」


「それって聞き間違い・・・」

「ユリウス、その剣の特徴を詳しく話してくれ」

「陛下?」


 ギル兄さまの声にかぶせる勢いで父さまが聞いてくる。頷いて、見たままの情報を話した。

「白い、ミスリルと思われる剣・・・細かな装飾の柄にターコイズの石、周りにダイヤモンド、ルビー、サファイア、エメラルドの貴石、か」


 眉をしかめて何やら思案をする父さまに、兄さまもオレも声を掛けられない。やおら席を立って机を回り、引き出しから何かを取り出して戻ってくる。

 もう一度座りなおして、手にしたもの・・・本? 手帳?・・・を広げ、一枚の紙を取り出した。


「ユリウス、その剣とはこれで合っているか?」


 その場にいる人間の眼が、その紙に集まった。

 写真にも似た精巧な人物画が、そこにあった。


 室内だろうか。背景には暗紅色の緞帳が垂れ下がり、その前に立つ人物を浮き上がらせている。きらきらしい派手な衣装を身に纏い、大剣を手にしてポーズをとっている。

 その剣・・・確かにそうだ、あの煮凝りの中から出てきた剣に似ている。何より、柄にある大きなターコイズは見間違えようがない。


「間違いないです父さま。この剣です」

「そうか・・・もしやと思うておったが、やはり、か」

 ため息をついた父さまの顔は・・・暗く澱んでいた。


 それはラル兄さまの時と同じ顔。父さまは、何か、気づいていたんだ。

「・・・この方は誰ですか?」


 力を使ったオレは知らなくてはいけない。誰を、何を消してしまったのか、決してあいまいにしちゃ駄目なんだ。だからこそオレは、あえて聞いた。


 眼をあげて、父さまはオレを見た。そしてもう一度人物画に目を戻し、

「この方はコルヴィオス・フォン・アケンドラ。アケンドラ帝国第27代目・・・『暴虐王』だ」


 ある意味、予想していた名前を口にした。





読んでいただき、感謝です^^

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