第91話 トラ転王子、過去の亡霊と出会う(1)
泉の傍で1泊したあと、中心地まで急ごしらえで造った最短距離を逆にたどって『東の魔の森』を抜けたオレたちは、そのまま王城の『転移の間』へと戻ってきていた。
予定よりも早い帰還だったことから、『転移の間』に詰めていた近衛騎士や魔術師からは随分と驚かれてしまったが、情勢を見るかぎり早いに越したことはないはずだ。
なので、一刻も早く報告しようと執務室へ移動していたんだが・・・
「これはこれは、≪無能≫じゃないか。一体どこへ遊びに行っていたんだ?」
待ち受けていたのはディラン&ダリッドの脳筋コンビ。総勢10人ほどで廊下をふさいでいる。
こいつらも懲りないな。一度痛い目に合ってるってのに、学習する気ないのかねぇ。
「おまけに何だ、その後ろの柄悪いのは。そんなのを連れて王宮の中を動くなよ」
「ああ、まったくだ。せめて近衛騎士にしろ。お前も王子なんだからな?」
あらら、こいつら、見た目で判断してやんの。彼らは近衛騎士だよ? 顔も知らないのか?
「お二方。今から陛下に報告に行くところです。邪魔しないでください」
出来るだけ穏便に済まそうと口を開いたが。
「けっ、報告だぁ? どうせそこらのゴブリンでもやってきたんだろ? 何を大袈裟に言ってるんだよ」
「あっははは。当然だな! 何なら戦果を見せてみろよ。見せられるもんならな」
ほほう成程、なら見せるか。
「これですよ」
「げっ!!」
「な、何だ、そいつはっ!!」
取り出したのはザクトロンティラスの頭。それも恨みがましく白目をむいた部分と、血塗れの牙を正面に向けてやった。
ほんのちょっと出しただけなのに、一気に腰が引けたな~、まあ、当然だが。
「遠慮はいりませんよ、もっとこちらで見てください」
「お、おおおおおお前っ! なんてもの持ってくるんだっ!」
「え、だって『東の魔の森』ですから、これくらいの魔獣はゴロゴロいますよ?」
嘘だがな(笑)
「ま、『魔の森』だとぉぉっっ!?」
「う、嘘言うなっ! ≪無能≫があんな場所に行けるわけがないだろうっ!」
「今帰ってきたところですが」
澄まして流してやった。
因みに後ろでは盛大に吹いていたな、全員が。
「という訳です。退いてくれませんか、お二方?」
そう言いつつ、1歩踏み出すと。
ズザザザアアァッ、と擬音付きで逃げ出してくれた。
あ、ひとり転んだ。あれはダリッドだな。まだ、転ぶ癖(?)は治ってないみたいだ。
なんであいつら、こんな幼稚な絡みをするんだろ。
ため息をつきながらザクトロンティラスの頭を戻していると、
「ぷくく。相変わらずの小物たちだにゃ、あいつらは」
「あれで成人前とは恐れ入る。親の教育が悪すぎるな」
二人とも、辛辣さに磨きがかかっている。ま、毎回あれじゃあなぁ。
「なあ、あれって第一側室と第二側室の王子たちだよな。俺たちの顔、知らないのか?」
「あの有様じゃ知らんのだろう。近衛騎士は置物だとでも思ってそうだからな」
「・・・頭の造りが微妙・・・」
「俺、あそこの配属、断ろうかな。最悪冒険者に戻ってもいいからさ」
「・・・フィリクスのいう事もわかる。でも、それはやめた方が、良い」
「止めるなら3人一緒だ。そういう約束だったろう?」
「そう、なんだけどさ~・・・」
元冒険者組がこそこそと話している。うん、そう言いたくなる気持ちもわかるんだけど、さ。
まずは陛下に報告しないと。後のことはそれからだね。
脳筋コンビにやる気を削られてしまったが、気を取り直して執務室へと向かおうか。
きっと待っててくれるから。
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