第90話 トラ転王子、『東の魔の森』に挑む(9)
オレの光魔法が届いた瞬間、無機物である筈の剣が身をよじった、ように見えた。
グヮジギャリオルゥゥ・・・グジオジイィィィ・・・
「・・・ぐ? くち、おしい、・・・?」
ドゥボォジデ・・・ヨヴァ・・・ジヌノガァァァ・・・
「ど、うして・・・よ? は? しぬ、死ぬ、のか・・・?」
ヨヴァ・・・ヨヴァ・・・ヴぁルゥグゥゥナァイィィ・・・
「よ・・・余は? 悪く、 ない・・・?」
ドロッテ、ヤグゥゥゥ・・・ノドッテ、ヤルゥゥゥ・・・
「泥って? いや、呪って、やる・・・?」
アアアァァッッ・・・ジャズラアァァンン・・・!
「ジャズ・・・シャス、ラン・・・!?」
ピシッ・・・
小さな、本当に幽かな音がオレの耳に届いた。
音の出た先にあるのは、白い、剣。その滑らかな表面に、細かなヒビがひと筋。そこから縦横無尽に、ヒビが走り出し、あっという間に剣全体に及んでいった。
ヒビが伸び、その先で繋がり、また先へ伸びていく。滑らかだった剣の表面がヒビに覆い尽くされると、今まであった輝きが無くなっていた。
そして、ひび割れた隙間から光が漏れ出し。
「あ・・・」
声を出す間もなく、剣は見る間に光と化して壊れていく。
あの大きなターコイズも、何もかもが細かく崩れ、塵となって消え失せていった。
それと同時に、あれほど濃い『瘴気』の煮凝りも薄れ、魔力の流れとしてオレの中に流れ込んできたが、もはや普通の時と変わらない軽さとなっていた。
「ふぅ・・・それでもこの頭痛はちょっときついな・・・」
一番最初の時の不快感はまだオレの中に残っていた。少しでも回復できるようにと、痛む頭に手を当てて光魔法を流し込んでいると、
「主! いかがされた!」
「坊ちゃん、大丈夫かにゃ!?」
カインとミャウが走り寄ってきた。
「ああ、何とかな。そっちは片付いたかい?」
聞きながら顔を向けると、元冒険者の近衛騎士たちが、やっこらせといった感じで座り込んでいるのが見えた。
その前には翼をもがれ、首を叩き折られたダイラスワッドと黒焦げになったキラープラントの残骸が残っている。おお、見事にやっつけたんだな。
ザクトロンティラスの方は、すでにこと切れているようだ。カインの見立て通り、相打ちになっていた。
「翼野郎の1頭は逃したな。ちっ」
カイン、そんな舌打ちしなくても。
「煮凝りが消えたから、もう戻らんにゃ。頭が軽いわりにしたたかだにゃ!」
ミャウも言いたい放題だ。
「止めてくれ。・・・もう、これ以上戦いたくない・・・」
あの声はフィリクスか? なんだか一気に老け込んだような。
「あの一撃がここまで入るとは思わなかった。自分ももっと鍛えねば!」
ガトラン? なんだか変なスイッチ入ってる、よ?
「・・・こんな方法があったとは・・・やはり対人スキルが必要、なのか・・・」
うん、ナギはもう少し話そうな。
なんだかもう、いろんな見知らぬ世界を垣間見たようで、黄昏たり発奮したりで少々カオスの状態なんだけれども。
とりあえず、全員そろって無事に乗り切った、そのことだけは間違いなかった。
その後。
オレの能力でダイラスワッドの核を手に入れたり、キラープラントをばらして討伐証明部位をはぎ取ったり。
ザクトロンティラスだけは使い道が多いという事で、元冒険者たちに解体をお願いして持ち運べる大きさにしたりしながら、周辺の様子を確認した。
思った通り『瘴気』の煮凝りが消えたことで、魔獣の生態系が元冒険者たちの記憶していた配置に戻ったようだ。とはいえ、中心地のここの空気感は相変わらず重苦しい物であったけれど。
「ここの奥にある泉付近なら、一息付ける筈」
そういわれて、野営する予定で進んだ奥にあったのは、澄み切った水をたたえた泉だった。
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