第9話 トラ転王子、捕獲される?
「・・・で、どうしてここに居るんでしょう?」
「何かおかしいかい? 遠出した後だから、のども乾いてるだろう弟をお茶に誘っただけじゃないか」
「・・・父さまがいらしてそれでは、かなり苦しい言い訳だと思いますが」
「あはは、そうかもしれないねぇ」
魔獣狩りから何事もなく戻ってきたのはつい先ほどの事。門を入ってそこで解散かと思いきや、何故かギル兄さまにしっかり手を握られたまま、本宮の一画へ引き込まれてしまったんだ。
そこには何と父さま・・・アケンドラ国王カイラス・シャスランが優雅に茶を嗜んでいたという次第。
どう考えても仕組まれていたんじゃないかな~?
ユリウスは賢いねぇ、などとほんわりつぶやいている兄さまに勝てっこないとは知っているけれど。
心の準備、ってのがあるでしょーがっ!
などと、内心でグチグチぼやいていたんだが。
「そうごねるでない。余が頼んだのだ。たまには顔が見たい、とな」
相変わらずエスパーの父さまにはお見通しなんだよなぁ・・・はぁ。
「いえ、父さまにお会いしたかったのはボクもです」
いつまでも愚痴っていられないんだよな、この人の前では。
因みに、人前ではボク呼びだ。笑うんじゃない!
「嬉しいことを言ってくれるのだな。日に日にしっかりしてきたと思うておったが、また一段と賢さが増してきたようだの。ギルバード、そう思わぬか」
「確かにそうですね。今日の魔獣狩りも、ユリウスと護衛の二人であっという間に片付きましたよ。こちらが今日の戦果です」
そう言って、袋の中身を見せる。
「ほう、見事だ。≪魔力喰らい≫の能力、使いこなせておるな」
「毎日の研鑽も欠かしませんし、勉学でも講師が感心していましたね。良くやっていますよ」
二人に褒められて思わず顔が赤くなる。頑張ってきた努力を認められるって、本当にうれしいんだよな。
「うむ。これならば大丈夫であろう。ユリウス、『試練の洞窟』へ行く気はあるか?」
「え、良いんですか?」
「父上、それは!」
飄々としていたギルバードが背筋を正し、強い言葉を発した。オレも思わず手にしていたカップを取り落としそうになっちまったよ。
『試練の洞窟』は、能力を発現した者が行う。初めて聞いた時、成長に伴う通過儀礼かなと思っていたんだが、能力の発展を促す、文字通り『試練』なんだそうだ。平民であれ、そこを完遂することはひとつのステータスであり、将来の職業に選択肢が増えるのだという。商人に雇われてもそこそこの高給が約束され、宮廷魔術師や騎士になる可能性さえ秘めている。
王族は受けることが義務とまでなっている。当然だよな、それだけ重い地位なんだから。
発現前のオレがボロクソに言われたひとつだけどな!
そんな『試練の洞窟』に行けるのなら、是非とも行きたい。ギル兄さまは反対してるけど。
当の父王は何ということもない表情でさらりと受け流す。
「確かにまだこの年齢では早いかもしれぬ。だが、話を聞く限り、問題ないと思うのでな」
「それは、そう、ですが! 父上、ユリウスはまだ5歳ですよ。いささか、いや、かなり早くないですか?」
「我もそう思わぬでもない。しかし、≪魔力喰らい≫とはいかなる成長をしていくのが正しいのか、誰にも分らぬのだ。故に、あの方の力を借りようと考えておる」
「父上のお考えは分かりました。なるほど・・・」
あの方? オレの知らない情報が出てきたけれど、誰の事なんだろう。
思案顔でうつむいていたギルバードがオレの顔を見た。
「ユリウスはどうしたい?」
「できるなら、受けたいです。父さま、お願いできますか?」
父王の顔が微笑む。
「うむ、良かろう。大司祭に話を通すゆえ、しばし待つがよい」
「ありがとうございます! ギル兄さまも心配してくださってうれしいです!」
「ああ、キミがその気なら止められないね。気を付けるんだよ」
「はい! 母さまにも伝えたいので、御前失礼します」
二人に挨拶して部屋を出る。よぉし、やってやろうじゃないか!
新しい目標ができて浮かれていたオレは護衛達、特にカインのもの言いたげな顔に気づかなかった。
読んでいただき、ありがとうございます!
更新する時間がなかなか定まらないのでご迷惑かけます(陳謝)