第84話 トラ転王子、『東の魔の森』に挑む(3)
それは、普通の平民が使う薄っぺらい紙ではなく、何かの皮をなめして作られたもののようだ。距離や方向をきっちり計って作る正確なものではないが、目標物とそこに至る道筋が一目でわかるようになっている。
インクの濃さの違いが、時間をかけて集められた情報で上書きされていることを物語っていた。
「これは、俺たちが『東の魔の森』で活動していた時に作った地図だ」
オレが何か言う前に、ガトランが話し出した。
「森の全景とけものみち、薬草の採取ポイントが主に書き込んである。それと、魔獣の周回コースと危険すぎる地域も併せてな」
「そこまで調べていたのか・・・」
カインが絶句している。
「いやまあ、危険な魔獣になんて遭ったら俺たちなんてオシャカだからな。自衛のためだよ」
自嘲交じりに答えるフィリクス。
「場所が分かっていれば、薬草も探しやすいし、魔獣も避けることができる」
確かにガトランのいう通りだけど、これほどのものを作るには相当時間かけたんじゃないのかな?
「これ、すっごい情報にゃん? アタシたちに教えても良かったのかにゃ?」
「ミャウ、どういう意味?」
オレの疑問にミャウが振り向く。
「多分、これはこの人達だけの情報だと思うにゃ。冒険者ギルドも知らにゃい筈にゃ」
「冒険者にしろ傭兵にしろ、独自の情報を持つ者がいる。これはその一つだと思う」
「え、つまり・・・機密事項?」
「お宝、だな(にゃ)」
うげぇ、なんつーものを出すんだよ!
焦ったオレが3人を見ると。
「確かにこれは俺たちだけの秘密だな」
しらっとガトランが答える。
「結構頑張って調べたよな、これ」
「ん・・・あの時何回か死にかけた」
・・・をい。
「薬草だと思って引っこ抜いたらマンドラゴラの子供だった時があったな、確か」
「あん時はもうだめかと思ったよ、俺」
「・・・耳栓が間一髪で間に合った」
み、耳栓、て。
「ポイズンコンダに狙われたときもあったっけ」
「あれは持久戦だったな」
「・・・思い出したくない・・・」
ポイズンコンダ・・・でっかい毒蛇 だよな・・・。
「幻魔草にやられて2日森の中をさまよったのは痛かった・・・」
「あれって期限を切られてたよな」
「ぎりぎり間に合った・・・半分死んでた」
止めろよ、そんな思い出話は。聞いてるだけで心が折れる!
「そんな思いをして作ったものを、ここで出していいのか?」
半分呆れてそう聞くと、
「出すつもりはなかった。けれど、王子のなされ方を見ていて、恩に報いたいと思った」
「俺たち3人とも、同じ考えだ」
「王子の、為なら・・・」
うはぁ、これは重たすぎないか。
「我が主。これは受け取るべきだ」
「そうにゃ。坊ちゃんだってわかっているにゃ?」
あのな、お前ら。さっきまで排除する気満々だったくせに、何言ってるんだよ。
「主の深い思いやりに触れれば誰もがこうなる」
「坊ちゃんは無自覚な人たらしの才能があるにゃ!」
ちょい待て、お前ら!
どんだけ色眼鏡でオレの事見てるんだ、一体!?
ここに居るのは、たかだか5歳の男の子だぞ?
かろうじて王族の端っこに引っ掛かってるだけの、訳の分からん能力持たされた人間だぞ!?
オレに人たらしなんてできるかぁっ!
「はぁ・・・なんだかすごいものを見せてもらったが、それが総意なら使わせてもらおう。少しでも早く、中心にたどり着きたいからな。頼む」
「はっ。喜んで!」
・・・も、いいや。さっさと煮凝りのところに行こう。
な、なんか、ブックマークが増えてる・・・?
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