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第82話 トラ転王子、『東の魔の森』に挑む(1)

「ふんっ!」

 鋭い銀閃が奔り、目の前のマッドボアが縦に裂ける。が、勢いは止まらずに、そのまま脇を駆け抜けていき、倒れ伏した。


「はぁっ!」

 後ろでは紅く燃える両手剣が振り回され、クラッシュラビットの集団が蹴散らされていた。


「≪反転ネット≫! からの≪アイアンクロウ≫!」

「ブモオオォォッッ!?」

 レッドボアが弾き飛ばされ、そのまま消滅していく。落ちてくるのは魔石だ。


 しばらく残心して知覚網(サーチ)を確認する。これで一旦周りから敵性反応が消えた。

 溜めていた息を細く吐き出し、姿勢を戻す。慣れたせいで、魔力を受け入れた時のむかつきもだいぶ軽いものになっていた。


「さすがは『魔の森』、魔獣の身体が頑丈だ。ひとつ間違うと刃こぼれを起こすかもしれん」

「敵対反応も大きいにゃ。見かけたら襲ってくるにゃ」

「油断するなよミャウ。カインもお疲れ様」

「「はっ」」

 ひとまずの戦闘を終えて緊張を緩める。


 と。


 後ろから声があがった。


「あんたたち強すぎじゃん! 何だよこれはぁ!」

 振り向けば、そこには冒険者の姿になった近衛騎士3人がいた。


「俺たちが付いてくる必要があったのかい、これって」

 ジト目で愚痴るフィリクスに、


「陛下がおっしゃっていた意味がよく分かった。確かにそうだな」

 諦めきったガトランが追随し、


「・・・こちらがお荷物になっている・・・」

 死んだ目をしたナギが座り込んだ。





 あの後、地下に続く扉の前で待っていたオレ達に、父さまとギル兄さま、装備を変えた3人が合流して、『転移の間』へと移動した。

『転移の間』では既に『東の魔の森』への転移魔法陣が起動状態にあり、魔術師たちが維持していた。その周囲を騎士が取り巻き、万一の時のために待機している。


 魔力をたたえてきらめく転移魔法陣を前に、父さまが振り向く。


「もう一度言うておく。『魔の森』は危険な場所である。それぞれが己の役割を心に刻み、力を合わせて全うせよ。無事帰ってくるのを待っておるぞ」


「しかと承りました」

 一同が跪いて礼を取る中、オレが代表して返事した。


「うむ。魔法陣の定員は3名故、まずはユリウスと護衛達、行くがよい」

「はい、陛下」

 オレはカインとミャウに合図して魔法陣に乗る。その前に念のためにと、聖魔法をかけた。

 オレ達の身体が淡く光るのと魔法陣が起動するのが同時で、そのまま、『東の魔の森』へ転移していった。


 ほんの数秒、真っ暗な空間に居たかと思うと、景色が変わった。


 そこはもう、『東の魔の森』が目の前に広がる空き地だった。この前と違って、辺りに『瘴気』の欠片もない。


 すぐに知覚網(サーチ)をかけると・・・お~お、見事に真っ赤じゃん。主に前方の森の中がな。


「主、こちらへ」

 声の方を向くと、聖水で簡易結界を張った中にカインとミャウが立っている。

「魔法陣から離れにゃいと次の人たちが転移出来ないにゃ」

「そうだったな、すまん」


 ミャウに促されて魔法陣から離れる。一度弱まった光が再び強くなり、消えるとそこには近衛騎士の3人が転送されてきていた。

 到着した途端、3人とも腰を落とし、背中合わせとなって周囲を窺う。その様子はまさに百戦錬磨の冒険者だった。


「うん、辺りには反応がないね。大丈夫だよ」

 フィリクスが声をかける。

「確かに。大丈夫だ」

 続いてナギが警戒を解く。無言のままガトランが腰を伸ばした。


 そして。魔法陣から出たガトランが真っ先にオレの前で跪いた。

「ユリウス王子・・・」


「あ、それ止めて。いちいち面倒だから」

「・・・面倒・・・」

 固まったガトランを見据える。


「今から行く『魔の森』は危険な場所だ。みんなで力を合わせないと奥まで達することは難しい。王子だ何だと地位を云々する時間も惜しい。冒険者仲間で攻略する、そういう扱いで十分だ。良いな」


「ですが」

「じゃ、名前でいいっすか、それとも坊ちゃんでも?」

 割り込んで聞いてきたのはフィリクス。何故か目を輝かせている。


「どっちでも構わないよ、呼びやすい方で」

「了解っす」

「おいフィリクス」


「大丈夫だよガトラン。このお坊ちゃん本気だよ? 乗ってあげなきゃね」

「し、しかし、王族の方を呼び捨てには」

「ん~、相変わらずだねぇ。じゃあさ、王子でいいじゃん」

「・・・そうか」


「ナギ、は・・・いいか。声を出すことも珍しいからね、こいつ」

「・・・ん」

「じゃ、今から向かうことにしよう。ここからの案内を頼む」

 こうして『魔の森』へ入り込んだんだが・・・。





「あんたら強すぎっすよ! 俺らの出る幕、無いじゃんかぁっ!!」

 冒頭の場面に戻るとこうだった。





読んでいただき、ありがとうございます!

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