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第81話 トラ転王子、不穏の源に至る(6)

 内心首をかしげているオレにかまわず、話は進む。

「近衛騎士の相手は王侯貴族や他国の軍人、不届き者の拘束及び排除。すなわち『人』を相手とする。しかるに今回は魔獣や『瘴気』であるからには・・・」

「近衛の看板はいらないってことですよ」

「・・・かえって邪魔、だ」


「ナギよぅ、言ってることは正しいけど、それじゃ短すぎ。そんなんだから誤解されんだよ、君は」

「別に・・・」

「あ~もう、この偏屈男は! ちっとは友情を育てようって考えないワケ?」

「落ち着けフィリクス」

「ガトランもそこで甘やかさないっ! そーやって追及を止めるからナギが成長できないんだよ!」

「・・・このままで、いい」

「良くないっ!」


 何なんだ、この会話は。確かに冒険者のやり取りならば頷ける、が。

 それを止めない父さまとギル兄さまがおかしすぎる。ここ、執務室だよ?

 街中の、居酒屋じゃないんだけど!?


 オレの呆れた顔が目に入ったのか、父さまが制止する。

「止めんかそなたら。いつまでも続けるでないわ」

「まあ、面白いけどね。今日はもっと別の用事があるからやめようね?」

 ギル兄さまの真っ黒けな笑顔に、3人の顔が引きつった。


 おお、ナギも顔色が変わるんだ。そっか、流石兄さま。破壊力抜群だな~。

「ユリウス? ろくでもない事考えていないかい?」


 ・・・兄さまの読心術は最凶です、ハイ。



「先ほどの話に戻るが・・・では、冒険者の装備で行くのだな?」

「陛下のお許しがあれば」

「俺、いや私も同じく(白々しいけどな、このやり取り)」

「・・・できれば」


「うむ、許そう。生きて戻ることができる方策なれば、余に異存はない」

「はぁ~、本来なら許可できることじゃないんだけどね~。ことが事だし、陛下も認めてるし。何より、君たちがそう決めたなら、金輪際替えっこないだろうしね。良いよ、それで行っておいで。でも」


 大仰にため息をつきながら、ギル兄さまが3人の前に立つ。

「これだけは守ってくれ。ユリウスたちと共に行き、共に帰ってくること。いいね?」


「お言葉、しかと承りました」

 ガトランが答え、同時に3人が作法に則った礼を返す。そういうところを見ると、近衛騎士なんだな、と思うよ、一応ね?


「じゃあユリウス、地下への入り口で待っててくれるかな。着替えたらすぐに3人と一緒にそちらへ向かうから」


「わかりました。では父さま、兄さま。行って参ります」

「うむ。ユリウス、気を付けるように」

「はい、父さま」

「護衛の二人にもよろしく頼むぞ」

「はっ。お言葉ありがたく頂戴します」

 オレはもう一度頭を下げ、執務室を出た。




 *******



 ユリウスが出ていった後、3人も動こうとしたが、


「しばし待て。ギルバード、あれを」

「承知しました・・・キミ達、これを渡しておくから、適切に使ってくれ」

 そう言って3人の前にいろいろと並べだした。


「このツボは聖水だ。とりあえず入る前に使って残りは予備に。それとこちらが回復薬。体力と魔力の分があるから各自で持つようにね。

それと、これが簡易結界用の魔道具。3組用意したから。後は連絡用の通話魔石。任務が終了したら転移魔法陣の近くで使用して。それを合図に魔法陣を起動させる。わかったかい?」


「・・・了解しました」

 ガトランが答えた後、少し間があく。


「それにしても殿下、随分と大盤振舞ですね? この回復薬なんか、下級の冒険者じゃお目にかかれもしないですよ」

 フィリクスが遠慮なく手を出して光にかざす。ポーションは色と透明度で効き目が違う。濃い青色の体力回復薬、美しい紫色の魔力回復薬。どちらも最高級品だ。


「ユリウスのためだからね、ケチらないよ。足りなくて大ごとになったら泣くに泣けない」

 大真面目に言い放つギルバード。

「うはぁ、愛されてんなぁ、あのちびっ子王子様は」

 フィリクスの揶揄いにも動じることがないのはさすがの王太子殿下である。


「ガトラン・マイシス、フィリクス・レンドラー、ナギ・トルタ」

 国王陛下が声を上げた。


「「「はっ」」」


「只今より第8王子ユリウスの護衛を申し付ける。『東の魔の森』において使命を果たし無事に帰還できるよう、力を尽くせ」

「「「承知いたしました」」」

「すぐに用意して地下の扉前に集合。そのあとはユリウスに指示を仰げ」

「「「御意」」」


「それと・・・」

 珍しくも国王が言い淀む。

 不審に思った3人が顔を上げると。

「ユリウスとあの護衛達であるが・・・お前たちが思うより強いし、規格外であることを覚えておけ。本人たちに他意はないからな。頼むぞ」

「「「は、はあ・・・」」」

「さ、早いところ着替えておいで。時間はあまりないからね?」


 3人がこの言葉に納得できたのは、『魔の森』に入ってすぐだった。





読んでいただき、感謝です!

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