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第80話 トラ転王子、不穏の源に至る(5)

 父さまに限定付きの許可を得てから数日後。

 執務室で父さまと向かい合っていた。


「ユリウス、『魔の森』へ行く準備は出来ているか?」

「はい父さま、いつでも行けます」

「・・・後ろの護衛達も、行くのか?」

「えっと、はい、そうです」


 オレの返事に一拍遅れが出たのは不可抗力! でも、それに何か感じたんだろう。父さまの片眉が上がり、後ろの二人を見やる。オレもそっと振り返ったが・・・


「「何か(にゃ)?」」


 満面の笑みの二人に、何も言えず、前を向いた。

 この件に関しては譲らないと分かったのだろう、父さまも口を開かなかった。でも、オレに向けたあの表情・・・なんか哀れみが入っていたような? 気の所為かな。


「そうか・・・ギルバード、頼む」

「承知しました。キミ達、中へ入ってくれ」

「「「はっ」」」


 扉が開いて、近衛騎士の鎧を身に着けた人物が3人入って来て並んだ。


 赤髪に灰色の瞳で大柄な熊男、薄緑色の髪にペリドットの眼をした優男、そして青髪で深紅の瞳を光らせた暗殺者(アサシン)タイプの男。


(え、こんなのが近衛に居るんだ・・・)


 少なくとも、近衛騎士と聞いて想像できる範囲にはいない。この3人ともが。

 むしろ、冒険者風にした方がしっくりくるだろう。


「キミ達、紹介を」

 ギル兄さまの声に従い、それぞれが名乗る。

「ガトラン・マイシスと申す」

「フィリクス・レンドラーです」

「ナギ・トルタ、だ」


 挨拶にも個性が出てるな~。熊男、優男、アサシン、だな。

「彼らは元冒険者でね、『東の魔の森』にも何度か入っているんだ。だから、ユリウスの助けにもなると思うよ」

 ギル兄さまの説明で、納得してしまった。


 冒険者から近衛騎士に抜擢するとは、流石父さま。懐が大きいなぁ。

 いや、今はそれよりも。


「兄さま、この3人は近衛騎士の武装で行くんですか?」

「ん? どういうことかな?」

「『魔の森』の中では、騎士の鎧って動きにくいと思います。栄えある近衛騎士の方がそれ以外の装備を使いたくないかもしれませんが、今回は冒険者の時の格好をしていくべきじゃないかと」


 それを聞いた近衛騎士たち3人ともが何やら驚いたようにこちらを見る。あれ、おかしなこと言ったっけ・・・?


「え、そうかい? 近衛の装備はいろいろ付与魔法が施されているから、冒険者が使っているモノより数段上のはずだよ」

「ええ、そうでしょうね。でも・・・」

 オレは言葉に詰まって頬をかいた。ギル兄さまのいう事は正しいし、性能だって確かに上なんだろう。


 だけど、今回、行くところは『魔の森』で、相手は魔獣や『瘴気』だ。王侯貴族や外国の軍隊相手ではないのだ。それをどう説明したらいいのだろうか。


 言葉を探してうつむくオレの耳に、低く笑う声が聞こえた。え?

 顔を上げると、優男が肩を揺らしている。


「くくっ、このお坊ちゃんなかなかやるねぇ」

「言葉を控えろ、フィリクス」

「でもさ、正論だよ、この場合はさ?」

「王の御前で口を開くな、と言っているのだ」

「ガトランは真面目だねぇ、上の御覚えも良くなるはずだわ」

「それが近衛になった時の決まりだからな」


 呆れたことに、近衛騎士が私語を漏らしていた。横目で見る限り、父さまもギル兄さまも平然としている。って事は、この面子であの会話は普通なんだ。


「ふむ。ユリウスの方が正しいという事だな?」

 父さまがそう投げかける。

「そうですな、陛下」

 平然と答える熊男。ガトラン・マイシスだっけ。


「あの『魔の森』の中で活動するなら、最適解でしょーね」

「え、近衛の装備よりも、かい?」

「殿下殿下、性能は良くても使いどころが違うんすよ、この場合」

 緑髪の優男の答え方がいやに軽い・・・

 いや、それよりも、許可を取らずに話していた事を咎めないの、父さま?


 一体、どうなってるんだろ?





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