第78話 トラ転王子、不穏の源に至る(3)
所用で昨日は更新できませんでした。
平にご容赦を(汗、汗)
翌朝、オレは父さまに謁見を申し込んだ。
こう書くと大仰に聞こえるが、実際は父親の休憩時間を聞きに行っただけだ。本式に申し込むとすっげぇ時間かかるしな。
そしてもうひとり、ギル兄さまにも同席をお願いしている。ことが事だけに、中枢を担うお二人にも聞いてもらった方がいいだろうと思うんだ。
「陛下、お時間を頂戴しまして恐縮です」
「堅苦しくせずとも良い。今は休憩中だ。家族であろう?」
「そうだよ、ユリウス。礼儀としては満点だけど、砕けてくれた方がうれしいかな」
「はい、ありがとうございます、父さま、ギル兄さま」
で、今はこの場面。3人そろってお茶を飲んでいる。魔獣討伐もひと段落し、ようやく二人の顔からも疲れが抜けてきたようだ。
ひとしきり討伐の出来事やら各地の様子やらを話していたが。
ギル兄さまが何やら頷くと、部屋からメイドや護衛が出ていった。
「兄さま?」
「キミの方から時間を聞いてくるなんて、珍しいことじゃないか。絶対何かあると思ってね、席を外させたんだ」
違わないだろ、と言わんばかりにウインクされる。ああ、もう、この完璧王太子ぶりには参るよな~。
「兄さま、ありがとうございます!」
「いやいや、たいしたことじゃないよ。で? 何の話しだい?」
「はい、父さまと兄さまに聞いていただきたいことがあります」
オレは『試練の洞窟』に入った時、世界樹と言葉を交わしたことを伝えた。二人とも特に驚いた様子がなかったから、これが普通なんだろうね。
「その時に、世界樹様からいただいたものがあります。ひとつは、魔術師長に渡した金色の魔石です」
「ああ、あの凄い力のある魔石だね」
ギル兄さまが頷く。
「はい。そしてもうひとつ戴いたのが」
そう言って、左腕を二人の前に突き出し、手首に意識を集める。
「っ!」
「えっ!」
二人の目の前で金環が姿を現した。
「これは世界樹様と連絡を取るための魔道具です」
「連絡を取る・・・?」
驚きすぎて表情を失くしたギル兄さまがおうむ返しに呟く横で、父さまの表情が動く。
「世界樹様がそこまで注視すべきことが起きる・・・そういうことだな?」
「はい、父さま。その通りです」
父さまが施政者の顔になっている。王国全土の民を導く、王者の表情だ。
自分を取り戻したギル兄さまも、同じような雰囲気を纏っていた。
「昨夜、世界樹様から連絡がありました。今、あちこちで起きている魔獣の異常発生、その原因が『東の魔の森』にある『瘴気』の煮凝りであること、それを一刻も早く排除するようにと」
オレの言葉にギル兄さまが反応した。
「では、すぐにでも聖水を教会にお願いしよう。あの森を進むとなると、かなり必要とするだろうからね」
そう言いながら、腰を浮かしかける。が、父さまがその肩を抑えた。
「父上?」
「しばし待てギルバード。まだ話は終わっておらぬ」
そう言いつつ、瞳はオレをとらえたまま動かない。
「それで? 話はそれだけではなかろう?」
嘘を許さない苛烈な瞳にオレは腹を括った。
「『流れ人』という言葉、ご存じでしょうか?」
二人とも不思議そうに首をかしげる、が。父さまが何かに思い至ったようだ。
「それは・・・神聖ブランヴィリオン教国の一番古い経典に書かれていた言葉ではないか? 確か、たまさかに現れる不可思議なモノで、『救世の英雄』もしくは『世界の破滅』、そのどちらかを意味する、と」
「父上、なんですか、その両極端の評価は? まるで裏表の言い方ですよ」
「うむ、そうなのだが・・・ユリウス?」
「世界樹様が言うには、『流れ人』とは、異なる世界の記憶を持った魂を総称する言葉です。そして」
次の言葉を発するのには少々勇気が必要だった。オレは背を伸ばし、軽く息を整える。
「ボクはその『流れ人』の魂を持つ者だと言われました」
その瞬間、二人とも固まった。まじまじと見つめられ、お尻の下がこそばゆくなってきたが、じっと我慢する。
最初に口を開いたのはギル兄さまだった。
「異なる・・・というのは、アケンドラとかヘイワードとか、そういうことではなくて、全然別の世界、っていうこと、だよね?」
「はい兄さま、それで合ってます」
「いや、合ってますと言われても・・・」
「それで、ユリウスはその、『流れ人』、であるのだな?」
動揺するギル兄さまと違い、父さまは早くも立ち直ったようだ。
「『流れ人』の話も、その時に世界樹様から聞かされたものです。それと、ボクの≪魔力喰らい≫の能力についても教えていただきました」
「うむ、続けよ」
『魔王』とか、≪魔王喰らい≫とかはやめよう。まだ先の話だしな。
今はとにかく『魔の森』の件だ。
「『瘴気』の煮凝りを消滅させるには、ボクの≪魔力喰らい≫の能力が必要です。なので、『東の魔の森』にはボクが行きます」
読んでいただき、感謝です^^




