第8話 トラ転王子、魔獣を狩る(3)
今まで最後尾に居たオレたちだが、ギル兄さまに促されて一番先頭に移動した。逆に言えば索敵をするに最も適した位置になる。
カインが右、ミャウが左。やや前方に突き出る逆三角形で進むこと十数分。
「二人とも、止まれ」
オレが制止すると二人も止まる。いや、声をかける前に止まっていたか。
そのまま身を低くして二人の中央の位置まで進むと、
「もうそこに居るにゃ」
ミャウがささやく。
「ああ。ちょうど集まっているようだ」
オレもささやき返す。そして後ろに居るギル兄さまに視線を送った。
ゆっくりと頷いたのを確認し、オレも前を向く。
「・・・行けっ」
ゴーサインを受け、二人が瞬時に居なくなった。
「いゃっほううぅぅっっ!!」
上空からミャウの雄たけびと共に焔の大蛇が前面の魔獣たちをなぎ倒した。
その隙間を縫うように黒い旋風が中段を駆け抜けると、立ちすくんだ魔獣の首がポロポロと落ちていった。
「にゃはははっっ!!」
大蛇の後から地上に接地した金茶の旋風、そうとしか言いようがない動きでミャウが駆ける。前面どころか中段までがほぼ全壊で、残るは最奥の3体のみ。それも今、右側をカインが、左側をミャウがあっさりと切り捨てていた。
中央の1体は別格のようだ。盛り上がった筋肉をこれでもかと見せつけながら、カインが繰り出す突きを意外に素早い動きでよけている。
そこへ割り込むミャウ。筋肉モリモリの魔獣が全力で殴りつけてくるのを両手大剣を盾にして受け流し、カウンター攻撃を仕掛ける。振り回された大剣の陰から細長い焔が伸び、魔獣の顔面へ目つぶしをくらわした。
オオオォォッッ・・・
思わずあげた悲鳴が終わる前に魔獣の首は胴から離れ、しばしの間をおいてから本体も倒れ伏した。
オレが合図してから1分経っていたかどうか、そのくらいの早業だった。
「流石は勇猛轟く黒の傭兵隊だね。鮮やかな剣捌きだったよ」
ギルバードが感心半分、呆れ半分の表情で辺りを見回す。あれだけいた魔獣がほとんど消え失せ、最後の魔獣もすでに溶け崩れだしている。
「この二人が付いているならユリウスも安心だね」
「で、ですが、ユリウス様は結局何の役にも立っておられないのでは・・・?」
この男はどうしてもオレを≪無能≫のままにしておきたいらしい。
そんな男を相手にするのも馬鹿らしくなり、オレは無詠唱で生み出したフック・・・アイアンクロウを、目の前に在る魔獣の体に突き立てて魔力を引き寄せた。
見る間に魔獣の体は消え、拳大の核が転がるだけになった。
「か、核がっ! 解体もしていないのに!」
驚愕する男に、
「一体キミは何を見ているんだい? ユリウスが解体の手間を省いているんだよ。今回の魔獣すべてのね」
冷気を纏ったギルバードの声が男にとどめを刺す。そこへ更に、
「坊ちゃん、全部集めましたにゃ。弱っちい割にはこの魔獣、核が大きいですにゃぁ」
ミャウが手にした袋をオレに寄こした。確かに、小さいけれど純度が高い核だ。
「ギル兄さま、結構集まりましたよ。これでお城の動力源に余裕ができますね」
「ああ、確かにね。ユリウスの能力にはいつも助けられているよ。それにしても、また腕を上げたね? 無詠唱の発動時間が短くなったような気がするよ」
そう、オレは二人が戦闘を開始した直後から小さいフックを連続して作り出し、それぞれの魔獣の魔力をすべて引き寄せていたんだ。おかげでげっぷが連続してしゃっくりみたいになってたけれど。
「あはっ、そうですか? ありがとうございます!」
「無詠唱、だって? しかも、解体していない? いったい、どんなイカサマなんだ・・・?」
衝撃が強すぎて現実を受け入れられない男は、その場に崩れ落ちたのだった。
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