第77話 トラ転王子、不穏の源に至る(2)
(『魔王』だって? それは確かか?)
(いや、今のところは憶測じゃが・・・可能性は高い。場所の特定ができるまでには至っておらんが)
(・・・・・・)
(今はまだ気にする程ではない・・・筈じゃ。それよりも、『魔の森』の件を片付けるのが先じゃろう)
(わかった。それは東にある『魔の森』で間違いないんだな?)
(うむ。つい最近、そこで『瘴気』が発生したであろう? その原因でもある。重く濃い『瘴気』の煮凝りは周辺の『瘴気』を呼び込み、己の中へ取り込んで更に大きくなっていくからの)
(! じゃ、この間、魔獣がわいたのも、その所為なのか?)
(ありうることじゃの。言うてみれば、煮凝りは誘蛾灯、『瘴気』や魔獣はそれが放つ力に引き寄せられるのじゃ。故に周辺には魔獣が集まり、危険な場所と化してしまう)
(そうだったのか・・・)
今さらに知る事実だった。魔獣は『魔の森』にいるから手強いのだと思っていたが、実際は煮凝りからの力を吸収して強くなっていたなんて。
(じゃ、じゃあさ、煮凝りを消滅させたら、『魔の森』が消えるのかな?)
(ん? そんなことはないぞ。『魔の森』は元々力の集まりやすいところと言うだけじゃ。大地のエネルギーが溜まる場所じゃからの)
(大地の・・・龍脈、みたいなものか)
(龍脈? とは何かな?)
(オレの前世にあった言葉でさ。所謂パワースポット、て奴なんだろうな)
そうか。強い力が溜まるから普通の森ではいられなくなり、魔獣や『瘴気』も引き寄せた結果、おいそれと近寄れる場所ではなくなってしまったんだ。
(大地の力に善悪などない。力はただ力、この世界を支えていく手段のひとつに過ぎぬ)
ユグじいが淡々とつなぐ言葉に耳を傾ける。
(じゃが、それも多すぎれば害毒となる。『魔王』とは、大きすぎる力をこの世界にもたらし続けるモノよ。ワシらはそれを防ぐためにこの世にある)
ならば『魔王』とはいったい何なんだ?
(オレはその『魔王』をどうすりゃいいんだ・・・?)
(判らぬ、としか今は言えぬ。その場にならぬと、今代の『魔王』がどのようなモノか判別できぬからの。何ゆえにそのような事態になるのかすらわかっておらぬ)
(随分とあいまいな・・・もっと、こう、分かりやすいやり方ってないのかな?)
(『魔王』を倒す、とかいうことかの?)
ユグじいの念話が届く。それは思ったより堪えた。確実に出てくる言葉であったにもかかわらず、オレはなぜか狼狽えた。
(た、倒す、って・・・)
(確実な方法じゃの。『魔王』をおぬしの能力で喰らい尽くせば、それで終わる話じゃ。それ故≪魔力喰らい≫と呼ばれるのじゃ)
被せるように続くユグじいの言葉に、オレの心が震えた。
(喰らい尽くす・・・オレは同族殺しをしなきゃいけない、って事か)
暗い気持ちでつぶやいたオレだが、
(ん? 『魔王』が人族とは限らぬぞ?)
(え? 人、ではない?)
(ああいや、人かもしれぬ。決まっておらぬのじゃ)
(決まっていない・・・それはどういうことだ?)
(『魔王』とは、強大な力を噴き上げるモノ。それこそ『瘴気』の塊、煮凝りでもそう名付けられる場合もある。それに意識が残っているかどうか、怪しいもんじゃの)
次から次へと出てくる新事実に、オレは頭を抱えたくなった。え、何コレ何これ、どうした訳、これ。
(・・・オレ、英雄譚には関わりがないと思ってたけど、これってその流れなんじゃないかな~?)
(ふむ。『魔王』を倒せばそう言われるかもじゃな。踏んばる事じゃな、『流れ人』王子?)
をい、その呼び名やめい! テキトーにくっつけんじゃないっ!




