第70話 トラ転王子、パーティに出る(7)
無事に帰り着いて、まずは母さまに報告。
「母さま、ただいま戻りました」
「ああ、ユリウス! 無事に戻ったのね、お帰りなさい!」
半分涙目でオレに抱き着いてきた母さま。心配かけちゃったなぁ。
「森で魔物があふれたって聞いたから気をもんだのよ。あなたなら大丈夫だとは思っていたけれど、顔を見るまでは心配で」
「ごめんなさい母さま。急いで帰ってきたのだけれど、これ以上は無理でした」
「良いの良いの、怒っているんじゃないのよ。本当に無事に帰ってきてくれてうれしいの。怪我はない? どこも悪くなっていないの?」
「はい、母さま。カインとミャウが頑張ってくれましたから、ボクは怪我もしてません」
「そうなのね。カイン、ミャウ、ユリウスを守ってくれてありがとう。わたくしからも礼を言うわ」
「お方様、勿体ないお言葉です」
「護衛の任務を果たしただけですにゃ」
「それでもあなた方の働きには感謝しかないわ。カイン、あなたの妹さんと弟さんがノードス家のメイドと侍従に雇われたそうよ」
「っ!! 真にございましょうか!?」
「ええ。まだ連絡が無いようね。おめでとう。これであなたもノードス家の家臣よ」
家族が領主の家に雇い入れられる、それは正式に家臣と認められたことを意味するんだ。信頼に値する、と、内外に公表したのと同じことで、家の家格や地位がグッと上がる。同僚や上司からも信用が増すし、街の皆からも受け入れられる。
もっと小さなことで言うと、食料や武器防具の購入で割引が受けられるんだ。これ、結構重要で大事だよ。毎日のことだから馬鹿にできないくらい経費が少なくなって、やりくりが楽になるんだって。
あの無口無表情のカインがあんぐり口を開けて驚き、すぐに下を向く。
「まっ、誠に、ありがたくっ・・・」
「良かったなカイン。おめでとう」
「カインがボロ泣きしてるにゃ!」
「煩いっ・・・」
「ボクから手紙を送ってもいいですか、母さま?」
「ええ、良い考えね。わたくしも書くから一緒に出しましょうね」
「はいっ」
そんなうれしい会話のさなか、ミリィが入ってくる。
「お話し中失礼いたします。いま、騎士様がおいでですが」
「ユリウス、多分陛下がお呼びだと思うわ。行ってらっしゃい」
「はい」
出てみると、やはり陛下からの呼び出しだった。そのまま執務室へ移動する。ふと見ると、カインとミャウがいつも通りについてきていた。カインの眼がちょっと赤いのと、ミャウがにやついているのを除けば通常運転、かな。
執務室では、今日の経緯を聞かれたので、最初から話したよ。元々今回の計画には疑問を持っていたし、父さまにも危険性を話していたから、割とすんなり終わったね。
「ふむ。思った以上にひどいな」
「トルカイス領は長らく平和でしたからね。騎士や兵士の鍛錬も身が入らなかったんでしょう」
腑抜けてますね、そう鼻で笑うのはギル兄さま。うわ、真っ黒な笑顔だ。
「エディアルトは歴戦の猛者だが、その分大局を見るのが苦手での。その補佐をする人間をつけていたのだが、ちと手に余ったようだな」
「トゥーリィは優秀ですが、身分が男爵でしょう? もう少し上げておくべきだと進言したじゃないですか。あそこの人間は爵位で人を見るんですから」
「そうだな。余の判断が甘かったか」
どうやら以前から問題視されていたようだ。ところでトゥーリィって?
「トゥーリィ・バウマント。参謀としては一流なんだけど、彼、剣が扱えないんだよね。致命的に不器用なんだ。ナイフくらいまでなら何とかなるんだけど、それ以上は自分自身を切りかねない。正直領軍に入れておかない方がいいと思いますよ、父上」
話の流れから見て、あの眼鏡の軍服かな? 確かにドジっ子みたいだ。
「・・・ギルバード。余の命としてトゥーリィ・バウマント男爵を引き上げさせよ。その後の配置と代わりの人選をそなたに任せる。よいようにせよ」
「では、彼は私がもらってもいいですね? ありがとうございます。ちょうどほしい人材でしたから助かりますね」
「それは良いが、代わりの人間を適当にするでないぞ?」
「分かっています。将軍その他を抑え込める、ピッタリの人材を派遣しますよ」
ギル兄さまの笑顔がどんどん黒くなるなぁ。
「それと、今回の件で亡くなった者の葬儀ですが、2日後に行います」
「そうか。縁者には厚く手当てをするように」
「承知しています」
やっぱり、死んだ人がいるんだな。あれだけの混戦だから仕方ないとは思うけど。
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