第7話 トラ転王子、魔獣を狩る(2)
東門から駆けること約1時間。王国直轄領の東側に位置する『シュラルの谷』の入り口に着いた。
馬はここで待機させ、徒歩で向かうという。
簡易結界を張った空間に馬たちを放ち、オレたちは谷の奥へと踏み込んだ。
入口に足を踏み入れた時点でオレにはわかった。普通の生き物たちの気配がなくなっていることを。
通常ならば、あちこちからオレたちを窺ったり身を隠そうと離れていくものだが・・・どうやらそういった弱い者たちは逸早く逃げ出したようだ。
オレの張り巡らしている知覚網に引っ掛からないからね。
もうひとつ、谷の奥に強い魔力が蠢いていることも分かっている。今回の討伐目標だろう。
今回ついてきた騎士の半分ほどが初めての討伐参加者らしい。彼らは一様にソワソワしたり顔色を悪くして辺りをやたら窺っている。例の第二側室の縁者もその一人だ。
近衛騎士なら討伐も当たり前だろうに、こんなことで浮足立っていてどうする気なんだ。
まあ、兄さまの目的のひとつが肝試し、てことなんだろうな。
そう考えていると、
「ユリウス、数はどれくらいかわかるかい?」
前方で騎士たちに囲まれている中からギルバードが問いかけてきた。
「弱いのが30体、中くらいの魔獣が12体、その奥に強いのが3体居ます」
「強さで言うと?」
「弱いのはゴブリンソルジャークラス、中くらいのはマッドボアからクラッシュラビットくらい、強いのはレッドワイバーンかロックバイソンですか、ね」
「何でそんなにはっきり言えるんだ!? 出鱈目も大概にしろ!」
オレを役不足だとささやいた側近が真っ赤になって怒鳴ってきた。怒るのは勝手だけど、そんなに騒いで向こうに気づかれたらどうするつもりなんだか。
「声が大きいよ、キミ。相手に先手を打たれたらどうするんだい?」
同じように思ったんだろう、ギル兄さまの声に冷気が加わった。
「し、失礼しました殿下。ですがあまりにもこい・・・ユリウス様が口から出まかせをおっしゃるので注意しようと・・・」
オレの事、こいつ呼ばわりしかかったな、この男。第二側室のところではそれが平常運転なんだろうか。
「ユリウスの索敵は精度が高いんだ。それにもう何回か討伐も経験してきているからね。その辺りは慣れてるよ」
「は? あ、あの、ユリウス・・・さまが、ですか?」
本当にこいつ、今まで何をしてきたんだろう。≪無能≫の噂を聞いて、それしか信じてこなかったんかな。なんちゅう、お粗末な。
「こう見えてユリウスは優秀だよ。それにキミは今回が初めてだろう? 後ろに下がって怪我しないようにしているんだね」
・・・キミの技量じゃ間に合わないよ・・・
そんな副音声が聞こえた気がする。
「そ、そんなっ。わ、私は護衛で・・・」
「さっきも言ったけど大声を出さないように。守れないようなら物理的に黙らせるよ?」
「・・・っ!」
こういったところがスゴイんだよな。普段は穏やかでのほほんとしているのに、ひとりひとりの本質を見極めるのがとてもうまい。流石は王太子様だ。
顔を青くして黙った騎士をそのままに、ギルバードは指示を出す。
「ん~、そうだね。今回は数が多いし、時間をかけると本命が逃げだしそうだ。ユリウス、手を貸してくれるかい?」
「はい兄さま、喜んで」
「キミの護衛達はあの傭兵隊で揉まれてきた人たちだったね。その腕前を見てみたいけれどいいかな」
うん、それが目的だってことは分かってた。
オレは二人を見て口を開く。
「カイン、ミャウ。ギル兄さまに辺境での狩り方を見せてくれないか?」
カインとミャウは顔を見合わせると片膝をついた。
「仰せのままに」
「了解ですにゃ!」
おお、久しぶりにカインの声を聞いた気がする。
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