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第68話 トラ転王子、パーティに出る(5)

「うろたえるな! たかが魔物ぞ、囲んで討ち果たせ!」

「「「はっ!」」」


 将軍の指示を聞いて動いた人間もいるけれど、そうじゃないでしょーが。


 こちらは守らねばならない人間がいるのだから、さっさと逃げ出さないと被害が大きくなるばかりだってのに!


「きゃああぁぁっ!!」

「こわいっこわいぃっ!!」

「助けろ、誰か私を助けろおぉっっ!」

「母上、母上えぇっ!!」


 ほ~ら見ろ、こういう事になるんだから、早く動かなきゃだめだってぇのにこの将軍は!


「撤退しますよ、将軍!」

「何の! このような雑魚どもに後ろを見せるなど!」

「側室様方を守る方が先でしょうがっ! 順番を考えてくださいっ!」


 駄目だこの人。筋肉馬鹿だった。

 そこへ眼鏡をかけた細身の軍服が走ってきた。


「何やってるんですか将軍! その子の言う通りに動かないと大変ですよ!」

「ぬうっっ! しかしだなっ!」

「あなたの矜持などこの際無視です! 全軍撤退!! 側室様方を守って馬車まで誘導、王城まで突っ切る!!」


「「「「おおっ!!!」」」」


 良かった、参謀が居たか! ならばこっちも動くだけだ!


「カイン、ミャウ! 道を開け!」

「了解にゃ!」

「承知!」

「ルーミィ様、ミーリア様、トーラス様! ついてきてください! ここを離れます! さあ、お早く!」


「は、はい! 二人とも、行きますよ!」

「お母様っ、怖い!」

「はいっ!」


「カイン、ソルジャーが混じっているようだ、気をつけろ!」

「はっ!」

「ミャウ! 前方の敵だけに集中しろ! 後ろはオレが見る!」

「はいにゃ!」


「お三方、怖いでしょうがここを抜けないと逃げられません。目をつむってでも走ってください!」

「わかっています、ミーリア、母につかまりなさい! トーラスも手をつないで!」

「こっちだにゃ!」

「ふんっ!」

「す、すごいです、ユリウス君!」

「話はあとで! さあ、こっちへ!」


 広場はもう混乱と悲鳴と怒号の渦だ。テーブルが倒れ、椅子が吹っ飛び、せっかくの料理が見るも無残に飛び散っている。

 その惨状を背に、オレたちは繁みに分け入った。


「ユリウス様、そ、そちらは、馬車、とは、違い、ませんかっ?」

 ルーミィ様がとぎれとぎれに聞いてくる。

「いえ、ボクの乗ってきた馬車の御者に指示してあります。大丈夫です」


 元々、何か嫌がらせをしてくると考えてたんだ。一番最初に思い付いたのが、ここから帰る馬車を取り上げることかな。その対策として、少し移動してもらったんだけど・・・こんな風に役に立つとはね。


 下草が足に絡んで歩きにくいからミャウに薙ぎ払ってもらってたら、少し前の方に人の気配がする。それと魔物の気配も。

「やだーーーっ!」


「カイン!」

 声をかけて一気に加速する。目の前の木を回ると、そこにはうずくまる女の子とそれをかばうコック、その二人に斬りかかるゴブリンソルジャーが見えた。


「はあぁっ!」

 速度のままにゴブリンソルジャーへ向けて飛び蹴りを放つ。

「グギャギャギャアッ!」

 間一髪、横っ面にケリが入り、吹っ飛んでいくソルジャー。それを追いかけてカインの刀がひらめく。


 それを横目で見届け、倒れこんだ二人に駆け寄る。

「大丈夫か!」

「あ、ああ、すまん。た、助かった」

 コックが起き上がると、その下には下女の制服を着た女の子が頭を抱えていた。


「立てるか、キミ? そこのコックさんも一緒においで。逃げるよ!」

 そう声をかけると、びくっと震えてから、顔を跳ね上げて女の子が立ち上がった。

 その膝に、大きな擦り傷がある。痛そうだな。


「ああ、怪我したんだね。ちょっと待って、これで・・・よし、と。さあ行くよ」

 ポケットにあったハンカチを巻いて止血代わりにする。女の子は硬直していたが、コックに手を引かれ、一緒に走り出した。うん、しっかり動けてるな。


 皆で固まって移動する。もうすぐそこが出口だ。あ、馬車が見えた。

 って、コボルトどもが群がっている! カインとミャウが斬りかかり、あっという間に片付いた。


「ユリウス様、ありがとうございます! いただいた簡易結界で怪我せずに済みました!」

 可哀そうに、御者さん半泣きだよ。怖い思いさせちゃったな。


「それはよかった。さ、まだ安全とはいかない。お三方、馬車へ」

「ありがとうございます」

「それと、コックさんとキミも乗ってくれ」

「あ、あたし、そんな身分じゃないんで、歩きます!」

「オレもそうする」


 うん、気持ちはわかるけど、乗ってもらわないとね。


「今は早くここを離れないとマズいから、窮屈だろうけどしばらく我慢してくれないか」

 一緒に乗ってるのが王族じゃ緊張するだろうけど、そこは目をつむってくれ!


 無理やり頼み込んで押し込むと、

「ちょっと走らせるから何かにつかまってて。ある程度まで来たら止まるからそれまで頑張って」

 そう声をかけて、御者に合図する。


 一気に走り出した馬と並走しながら、魔物を蹴散らしていく。カインは反対側、ミャウは露払いとしんがりを同時にこなしてくれている。

 そのまましばらく走って、魔物の追跡を振り切った。

 ようやく何とか逃げ出せたか。






読んでいただき、ありがとうございます!

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