第67話 トラ転王子、パーティに出る(4)
「ギル兄さまとは魔獣討伐で一緒になりますからその時に」
「ユリウスさま、は、魔獣討伐に行くんですかっ?」
食いつき気味に聞いてきたのはトーマス。
「呼び捨てでいいですよ。ボクの方が年下ですから」
「え、でも。じ、じゃあユリウス君で」
「はい、大丈夫です。魔獣討伐にはいきましたよ」
「凄いです! 今までどんなのをやっつけたんですか?」
「え~と。クラッシュラビットと、ゴブリンソルジャーとマッドボア、大きいのではタイラントボア、ですか」
「タイラントボア!? あんな大きいのを!?」
聞いた本人が唖然としている。そりゃそうだろう、この身体と比較しても大きいもんな。
「ほほう、おぬしがやっつけたというのか」
横から野太い声が割り込んできた。急に響いた声にびくっとしたのはミーリアとトーラスだけ。後の人間は顔色も変わっていない。
「ハリス将軍、いきなりの声かけは礼を失しておりますわ」
ルーミィ様がけん制する。
「いささか無礼ではござったが、タイラントボアの名が聞こえましたのでな」
「それでも程度がありましょう。わたくしどもは女子供、そのような無粋をされるいわれはないはずです」
・・・あんたんところの兵士じゃねぇんだよ、気ィ使え!・・・(意訳)
副音声が怖い。
「タイラントボアを相手取る強者がこれしきの威圧などモノでもありますまい」
・・・ビビってるんじゃねぇっ! 嘘つきが!・・・(意訳)
こっちも怖い内容だ。
「お話を聞くだけで威圧を受けねばなりませんか? 戦いなど知りませんのよわたくしたちは」
・・・場所を考えろよ、筋肉馬鹿が!・・・(意訳)
「おお、そうでしたな。我らとは戦場が違いましたか」
・・・お茶会にしか行けんだろうが!・・・(意訳)
疲れるやり取りだな、これ。いい加減終わらせようか。
「失礼。お話の途中ですが、タイラントボアはボクが仕留めました。エディアルト・ハリス将軍」
「ほぉう、それは真、ですかな?」
かろうじて敬語、か。この人はそれほど筋肉馬鹿ではない筈だけど、信じられないんだろうな。
東部の総括司令官だし。
「はい。ご不審なら陛下にでもお尋ねください」
・・・陛下の言を疑うなら覚悟しろよ?・・・(意訳)
ついでに少しの威圧を乗せる。他のテーブルの人間にも。
「ふうむ。なるほど、な」
流石は将軍、ピクリと眉を動かしただけで変わらないな。
あ、他の奴らの顔が青くなってる(笑)。
「少し大きすぎやせんかな、その力は?」
・・・威圧をばらまくとは未熟なやつだな(笑)・・・(意訳)
「あ、そうですか? 戸外ですので、調子に乗ってしまいましたね」
・・・これくらい軽いでしょう? 軟弱者が(笑)・・・(意訳)
裏でのやり取りが真っ黒すぎて陽射しが翳りそうなんだけど~っ。
ルーミィ様は笑っておられるけれど、ミーリア様とトーラス様はけげんな表情だ。そりゃそうだろうな。ちなみに、後ろの二人は笑いをこらえてる。
その時、オレの鼻に肉の焼ける匂いが届いた。ん、これは!
「坊ちゃん、危険にゃ!」
ミャウから促されるまでもなかった。常時開いていた知覚網に、新たな赤点が出てきた。しかも加速度的に増えている!
「カイン! ミャウ!」
「承知!」
「わかったにゃ!」
瞬時に二人が武器を抜いて警戒に当たる。オレも席を立って変形のクラウチングスタイルを取る。
一応、声は掛けておくか。
「将軍。お遊びはこれまでです。気を付けてください」
これに驚いたのが将軍だ。敵対したとでも思ったのだろうか、眉をしかめて睨んでくる。
「な、何をするか、小僧っ!」
その怒鳴り声が消えぬうちに、
「て、て、敵襲、魔物がきたあっ!!」
「うわあぁぁっっ!!」
「ぎゃああぁっっ!!」
いくつかの声が重なり、悲鳴が後から届く。これは数が多すぎるな!
「将軍、すぐに撤退を! カインとミャウは排除へ動け!」
「主の命のままに!」
「やるにゃあっ!」
「ぐぎゃぎゃぎゃ!」
「きゃひひひっ!」
「ギャギャギャ!」
直後、雄たけびと共に、広場へゴブリンとコボルトの群れがなだれ込んできた。
読んでいただき、感謝です^^




