第66話 トラ転王子、パーティに出る(3)
オレから見て右手の奥、泉に一番近いテーブルにライラ様御一行、その左側にシェルリィ様御一行がいる。ちょうど二等辺三角形の90度の位置がライラ様、両端がシェルリィ様とオレ達か。
声は届く距離ではあるな。
中央部分があいてるけど、何か余興でもやらかすのか。
オレ達が馬車を下りた方向から、侍女やらコックやらがたくさんの荷物を下げて出てきた。おいおい、この場で料理を作る気か?
左手の奥に陣取ったコック集団が竈を組み上げて網を置き、準備を進める。その間に侍女たちが各テーブルに飲み物とサンドイッチ、フルーツを配っていく。
あのコックの動きからすると、バーベキューでもやるんだろう。オレは上空を見上げた。
樹々を揺らしている風の流れだと、匂いは森の奥へ行かないな。
ひとまず安心する。
「ユリウス様? どうなさいました?」
ルーミィ様が尋ねてくる。
「あ、いえ、森の獣たちを刺激したくないなと思ってまして」
「そうですわね。あの方たちはその辺無頓着ですから」
ルーミィ様もあまりよろしくないと思っているみたいだ。
それより、挨拶が始まりそうだな。みんな、飲み物を手に立ちだした。
オレは目顔でルーミィ様を促し、立ち上がる。
「では、皆様。この良き日に出会えました事、感謝いたします」
ライラ様の声が響き、一斉に唱和して口をつける。うん、うまい果実汁だ。
第一側室ライラ様は正統派のお嬢様だ。金髪の巻き髪で濃い青色の瞳、ボンキュッボンの美女、と言いたいが、化粧が濃すぎる。元がいいんだから塗りたくらなくても映える筈なんだよな。真っ赤な唇なんて、どうかと思うんだが。
そこに居るのはサンドラとヘンリー、ディラン。一番下にアマリーが居るんだが、今日はいない。上から第1王女、第2王子、第3王子、第5王女。
第二側室シェルリィ様も正統派なんだろうな。明るめのブルネット?な髪色で、こちらはハーフアップにしている。きっつい顔立ちで勝気が服を着たような人、と言えばわかるだろうか。物語だと『悪役令嬢』を割り振られそうだ。
そのテーブルには子供が全員いる。キャリン、ダリッド、ローゲル。第3王女、第4王子、第6王子になるのか。
王族としてはどちらも立派な子持ちと言えるのだが、いかんせん魔力がそこそこなんだよな、全員。
というより、あいつら鍛えてるのか? 発現しているはずなんだが、訓練場でも見かけないし、第一『試練の洞窟』をクリアしていない。オレを突っつくのは熱心なのにな。
そういう意味ではルーミィ様のところも似たり寄ったりかな。ミーリア様が第4王女でトーラス様が第5王子。今が遊びたい盛りなのかもしれない。
オレ? 前世を足せば20超えるからね。年下だけど年上。うん、訳わからん。
「ユリウス様、お聞きして良いですか?」
あれ、ミーリア様が赤くなってる?
「えっと、何ですかミーリア様」
「あの、あの、後ろの方って、護衛ですよね。お名前を伺っても?」
「え、ああ、はい。黒服がカイン、金虎族がミャウですが」
「カイン・・・カイン様とおっしゃるの、ですね」
「は、はあ」
なんなんだ、これ。ミーリア様の目つきがおかしい? あれ、これって恋する乙女じゃねぇ?
当のカインは我関せずの姿勢で無視してるけど。
うはぁ、こんなところでコイバナなんてやめてくれよ。ここ敵地だぜ? 何があるかわかんないってのに、そんなお気楽な。
でも、オレと同じに危惧していた人がいて。
「ミーリア、場所をわきまえなさい」
冷たいルーミィ様の声が冷水をぶっかける。
「え、お、お母様・・・」
「ユリウス様に失礼でしょう。おやめなさい・・・娘が無礼をしました。申し訳」
「あ、頭は下げないでください。謝罪は受け取りましたから、そのままで。ここでそのようなことはなされない方がよろしいかと思います」
「確かにそうですね。ではまた後日にでも」
「それも必要ありません。食事時の冗談、それだけですから」
「重ね重ねお気遣いをありがとうございます。こうして見ても、ユリウス様は大人びておいでですね」
「そうでもないですよ。失敗ばかりで、ギル兄さまに叱られていますから」
「王太子殿下に、ですか?」
ルーミィ様の眼が丸くなる。あれ、聞いてないのかな。
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