第65話 トラ転王子、パーティに出る(2)
5日後。
オレはパーティに参加するために移動していた。
「坊ちゃん、どうして城の外に行くにゃ?」
ミャウが首をかしげる、が。
「オレも知りたいよ」
ため息交じりに告げることしかできない。ホント、何考えてるんだか。
パーティ会場は『シュラルの谷』の西側寄りにある泉のそば。確かにきれいな湧き水で木陰もあり、ちょっとしたハイキングにも使われていた場所だ。
だが、それは過去の事。今は魔物や魔獣が多くなってきて、ここでも出現が確認されている。現に15日前にもここでタイラントボアをしとめていた。そのこと、知ってるんだろうか。
「一応、父さまを通じて止めたんだけど。聞いてもらえなかった。
『魔獣ごとき恐るるに足らず! 我がトルカイス領軍が蹴散らしてくれる!』
そう言って2日前から常駐しているらしい」
「ご苦労なことだ」
カインが珍しく皮肉ってきた。
「ふ~ん。自分のところの軍隊を動かしたんだにゃ? パーティのためだけに?」
「そういうことだね」
「よっぽど暇かにゃ、そこは」
・・・そうか、それもあって父さまは黙ってるのかな。
ならオレも黙っていよう。下手なことやって怒られたくないし。
「主がまた真っ黒なことを考えているようだが」
「今更にゃ!」
お前ら、いい加減にしろよ!
『シュラルの谷』まで馬車で3時間半、結構かかるんだよな。馬で飛ばせば早いんだけど、女性や子供には難しいかな。
オレ、は・・・子供とみなされていないのかも。
うん、多分、そうだ。ハハハ・・・ハア。
それこそ今更、だな。
でもまあ、念のために知覚網を張っておこう。
うん? 前方に赤表示が・・・て、これ、トルカイス領軍の兵たちか。参ったな。これじゃ、敵か味方か区別がつかないぞ。
「主、ここの兵は我らに対して隔意があるな」
「カインにも分かる? ったく、もう少し隠してくれてもよさそうなものだけど」
「無理にゃ。ここの人達、お城の騎士さんより頭固そうにゃ」
「ミャウのいうとおりかな。ハハッ」
「ふっ、これしきの陣、打ち破るのに時間はかからん。甘いな」
「ん~、あそことあそこを切っちゃえば総崩れにゃ!」
「物騒な会話で盛り上がるんじゃない!」
「「どうして(にゃ)?」」
「お前らも相当腹黒だと思うぞ?」
「坊ちゃんには負けるにゃ!」
「同じく」
そこだけ同意するんじゃないっ!
などと言っているうちに、泉の傍まで来てしまった。
ずっと知覚網は真っ赤っか。これ、どうしよっか。
「カイン、ミャウ。辺りの警戒を頼む。今回はオレじゃ無理だ」
「もとより承知だ。任せてくれ、主」
「大丈夫にゃ、坊ちゃん」
軽く打ち合わせてから馬車を下りる。敵地にいるつもりで動かないとな。ここへ来る前に御者にもある指示を出してある。無用な心配になればいいのだけれど。
馬車を御者に任せて案内についていく。下草を刈って簡易な道にしたところを歩くこと3分、広い空間に出た。
そこは奥に泉を見渡せる位置で、涼し気な葉影がさわさわと揺れている。オレはその右端のテーブルに案内された。見ればあと二つ同じようなテーブルがセッティングされている。
「無駄に良い品だな、これは」
軽く拳をテーブルに打ち付けてカインがこぼす。
「そうにゃ。郊外のハイキングにゃら地面に布を敷くだけでもいいにゃ」
「そこが貴族のメンツであろうよ。食えもせんのに、な」
「まったくにゃ!」
そこで意気投合するのか、お前ら? いや、オレもそう思うけど。
ここは4~5人が座れるようだが、オレがここ、という事は。
すぐ後に来たのがルーミィ様とその御子たち。同じテーブルに来る。
「ユリウス様、御機嫌よう」
「ルーミィ様、先日以来です。母は弟妹達の世話で遠慮させていただきました」
「わかっておりますわ。この子たちが私の子ですの。さ、ご挨拶を」
「は、はい」
緊張して前に出てきたのは、栗色の髪に水色の瞳の女の子。
「第四側室の第一子、ミーリアと申します。よろしくお願いします」
「ぼ、ぼくは第二子のトーラス、です。よろしく」
トーラスは同じ栗色に新緑の瞳だ。両方とも髪をルーミィ様からもらったんだな。
「ご丁寧にありがとうございます。第三側室の第一子、ユリウスと言います。今日はよろしくお願いします」
きっちりと挨拶して頭を下げる。何やら息を呑んだような感じなので顔を上げると、3人ともに目を丸くしている。
訳が分からず首をかしげていると、
「ユリウス様はその年齢で立派に挨拶できますのね」
ルーミィ様がほめてくれる。
「うまくできていましたか? それは良かったです」
笑いながら先に椅子に座ると、それぞれが着席した。
見ると、他の席も埋まったようだ。さあ、これから探り合い、だな。




