第64話 トラ転王子、パーティに出る(1)
その日訓練場から戻ると、母さまが何やら困り顔で侍女と話していた。
「只今戻りました・・・どうしたんですか?」
「ああ、ユリウス、お帰りなさい。ちょっと困ってるのよ。あなたも話を聞いて頂戴な」
「? はい、母さま」
大急ぎで汗を流して服をあらため、また母さまのところへ行く。
「母さまお待たせしました」
「いいのよ。疲れているのに悪いわね」
「大丈夫です。一体何があったんですか?」
「まずはこれを見て」
「? 招待、状?」
高級な織りで作られた上質紙の封筒から、ややきつい香水の香りが漂ってくる。覚えのある香りに半ば予感を持ちながら中のカードを取り出した。
「5日後に野外パーティを開催、ですか。側室と子供たちの交流目的・・・へぇ」
思わず乾いた笑いが漏れる。大丈夫か、こいつら。
文面から顔を上げると、母さまも呆れたような困った顔をしている。
「母さま、これはどなたまでお呼びしているんでしょうか?」
「アデリーン様は入っていないの。ライラ様とシェルリィ様、わたくし、ルーミィ様、それと子供たちよね」
「前からこういう交流ってしてましたっけ?」
「わたくしも覚えがないのよ。だから、ねぇ」
は~っ。期せずして母さまとオレのため息が重なった。多分、同じことを考えてるな~。
「これ、明らかにルーミィ様狙いですよね?」
「ユリウスでもそう思うわよね。わたくしは復帰したとしても、まだ子供が小さいからと逃げられるけれど、ルーミィ様は無理でしょうから・・・」
あちらのやりたい放題でしょうね、と口の中でつぶやく。
「そもそも、どうしてこんなことに?」
「それがね~。この前アデリーン様とルーミィ様がおいでになったでしょ。そのことを変に勘違いしたみたいで、ね」
「あ~・・・派閥に取り込んだ、と?」
「ユリウスは賢いわね。それはあり得ないんだけれど」
本当にあの人たちは、と母さまが笑う。が、その笑みはちょっと怖い。
「それはまた・・・どうやったら出てくるんですか、その発想」
オレも呆れた。今の情勢分析ができてないって事だろ、それ。
せっかくやり過ごした内乱を勃発させるつもりなんだろうか。
いずれにせよ、出ても出なくても揉める事決定だな、この案件。
母さまはあくまで中立。どちらにも偏れない。どちらにもなびかない。
そのことを知らない人間が計画したってことだ。
だからこそ、ルーミィ様が大変なことになる。アデリーン様の助力が得られないし、貴族の爵位からいっても、ライラ様達にはかなわない。母さまは防波堤くらいにしかなれないしな~。
それにしても、大勢で一人をぼこぼこにするってのは、親直伝だったんだ。そりゃああいつらが自覚ないのも判るわ。
殴ったら殴り返されるって事知らないのかよ。知らないんだな、きっと。
殺っても良いかな? ちらっとそんな考えがよぎる。
「母さま、聞いても良いですか?」
「何かしら?」
「わざわざ側室となっているのは正妃様を入れないためですよね? それならセレネ様が入っていないのはどうしてですか?」
「そうなのよね、それが分かっていないのよ、あの人たちは」
母さまが大きくため息をつく。
「確かに曰く付きであっても同じ立場ですもの、そこは割り切るべきだとわたくしも思うのだけど・・・あの人たちは我慢できないんでしょうね」
自分たちより下なのだと思い知らせたい、って事なんだろうか。
「それに、肝心のセレネ様が、ねぇ」
「まだ記憶が戻っていない、と?」
「礼儀作法の点でも、なの。ラルフィ様がいたなら、まだそこは何とか取り繕えたかもしれないけれどね」
そっか。セレネ様、完全に孤立してるんだ。
「母さまは出られないんですよね?」
念のために聞くと、
「そうね。アルクもイリスもまだ小さいもの。わたくしも休みたいのよね」
ウフフ、と笑う姿はとっても可愛らしい。でも、その背後に般若が見えるのはオレだけか?
「ボクは出席してもいいですか?」
一応確認。報・連・相は大事。
「あら、そうしてくれたら助かるわ。わたくしの代わりに皆さまのお相手をしてあげて。まだ小さいから多少のやんちゃは許されるだろうし、ね?」
か、か、母さま~っ。それは暴れること前提ですか~っ!
さっきの心の声、聞こえちゃったぁ?
読んでいただき、感謝です^^




