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第62話 トラ転王子、王国の情勢を語る(2)

「アケンドラの氏族が王となって始まった『アケンドラ帝国』は、順調に発展していって、現在の大きさにまで成長した。全部で26代、796年続いたんだ」

「結構長かったんだにゃあ」

「そうだね。その中にはミャウたちのような獣人も移住してきたはずだよ。ただ、当初から獣人への偏見があって、住む場所とか仕事とかで差別されていたんじゃないかな」


「元々獣人は南のベル大陸から逃げてきた種族だったからな。難民の受け入れという事で割り振られていた地域へ押し込めていた」

「ああ、『ベル大陸の大災害』だな。いまだにあそこは無理みたいだけど」

「原因が不明だからな、まだ当分先になるだろう」

「二人で訳の分からない話をはじめたにゃあ~~」


 オレとカインで盛り上がっていたら、ミャウが拗ねてしまった。壁際で向こうを向いて体育すわりを始めたんだ。耳が垂れて、しっぽの先が頭に乗っかっている。気の毒だけど、面白くて噴き出しそうになっちゃったな。


「ごめんごめんミャウ。横道にそれちゃって。続き話すからこっちを向いてくれ」

「お前が拗ねても何の役にも立たん。後で素振り200回な?」

「ううう、カインが鬼にゃあぁ~~っ」


 べそをかき始めたから、お茶にしようかと宥めたんだ。




「それで、王位の分捕りはどうなったのかにゃ?」

 お茶とクッキーで機嫌の直ったミャウが聞いてくる。さっきと違い、耳は上を向いてるし、しっぽはリズムをとって左右に揺れながら時々回転するんだ。何とも器用なものだと感心する。


「アケンドラ第27代コルヴィオス帝王。この人は『暴虐王』と言われている。臣下の意見を聞かず、それでいて政策には口を出し、失敗すると臣下を責めてやめさせる。まともに仕事もしないくせに金を使い、自堕落に過ごした、と史書には書かれていた。ただ、どこまでが真実なのかはわからない。冷静な目で見ていたかどうか、判断できないから」


 こういう歴史は捏造されることが往々にしてある。自分のところに正義を求めて、必要以上に貶めるからだ。同じ立場になった時にきちんと評価できるかどうか、オレには自信がないな。


「にゃるほど~。確かにそれにゃら引きずり降ろされても文句は言えにゃいにゃ~」

「ミャウみたいに割り切れたらもっと楽だよな」

 オレの苦笑にカインが頷く。


「全部が全部嘘ではないが、愚王ではあったはずだ。セーブリス河の氾濫は、対策をとってさえいれば防げた悲劇だったしな」

「え、あれって政策のミスだったのか?」

「以前読んだ地方史実資料ではそうなっていた」


「そっか~・・・とと、それは後で聞かせてくれ、カイン。ミャウがまた膨れてきた」

「アタシは餅かにゃ、坊ちゃん!」

「ちがうって、あ、ミャウ、しーっ!」

「うぐっ」


 ちょうどその時、イリスが愚図りかけたんだ。慌てて揺りベッドを動かしたらまたむにゃむにゃと夢の世界へ戻ったけど。

 俺たち3人、ほっとして息をつきそうになり、口を押えてやり過ごした。


「危ない危ない、もう少し小さな声にしよう。え~と、とにかく第27代コルヴィオス帝王のおかげで、アケンドラ帝国の屋台骨が折れかけた。時を同じくして南西のエクアーシス共和国が内戦状態となり、周辺諸国へ難民が溢れ出した。面倒な時期だってのに、帝王は役に立たない。我慢の限界に来ていた高位貴族が有志を募って帝王を捕まえ放逐したんだ」


「簡単に言ってるけれど坊ちゃん。王様を放逐するって大変にゃ? うちも内戦ににゃったんじゃ?」

「そう思うだろ? でも現実にはならなかった。それというのも、来るべき日に備えて高位貴族が先手を打っていたから、混乱も反発もなく終わったんだよ」


「ほえ~~。でもでも、放逐されたアケンドラの王様はどうにゃったにゃ?」

「どうなんだろう。そこまでは何を読んでも判らなかったなぁ」


「放逐後10日目に西海岸から無謀にも大海へ漕ぎだした船が、沖へ出た途端に海の藻屑となり果てた報告が残っている」

 カインが話し出した。


「その船は帝王御用達の遊覧船で、居住性には優れているが、外洋の荒波に耐える構造ではなかった。おまけに重量は通常の船の2倍あり、魔獣の攻撃により船底に空いた大穴がもとで瞬く間に消えた、と」


「相変わらず無駄に知識持ってるにゃ~」

「何もない空っぽの頭よりずっと役に立つが?」

「アタシの頭が空っぽだって言うのかにゃ!」


「「ふんぎゃ~~!」」


 あ~あ、やっちゃったよ。大声出すなって言ったのに。

 仕方ない。ミルクの用意とおむつ交換でもするかなぁ。




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