第61話 トラ転王子、王国の情勢を語る(1)
「坊ちゃん、聞いていいかにゃ?」
お茶会から数日後、ミャウが首をかしげながら聞いてきた。
「どうした? この間から何か考えていたようだけど」
オレは弟妹達の揺りベッドを静かに揺らしながら尋ねた。
「ん~。何回考えても良く判らにゃくて、教えてほしいんにゃ」
「ミャウが考えるなんて珍しいな。昨日の対戦で負けた敗因とかか?」
「あれは違うにゃ。カインが腹黒だからにゃ」
「ほぉう、聞き捨てならんな。どの辺がだ?」
「どの辺もこの辺もにゃいにゃ、全部にゃ!」
「なるほど、よく言った。もう一度しっかり殺りあうか?」
「受けて立つにゃ!」
「こら待てお前ら。もう少し声と殺気を抑えろよ、起きるだろうが」
「「あ」」
今、ここに母さまはいない。先日のお披露目会が無事に終了したことで公務に復帰したのだ。
公務と言っても仕事は貴族間の調整だ。つまり、お茶会やら講習会やら・・・いわゆる女性の戦い、だな。オレはこの前のお茶会で十分だけど。
だから、この機会に弟妹達の面倒をオレが見ることで、ミリィとフラウに休憩をしてもらっているんだ。何と言っても昼夜別なく世話をするんだから疲れるし、それがふたりともなると、手間が増える。2倍じゃなくて2乗になるんだよ、こういうのは。侍女二人もさすがに疲れが顔に出てきていて気の毒だし、オレがそばで見ているなら、それが一番だろ?
そのため、この部屋にはオレと天使たち、カインとミャウの5人だけなんだ。
「ごめんにゃさい。うっかり大声出したにゃ」
「すまん、主。熱くなってしまった」
「大丈夫、天使たちは寝てるからね」
オレはベッドの二人を見て微笑んだ。ホントにこの二人は手がかからない。よく寝て、食べて、大きくなれよ。
「で、ミャウ。何が聞きたかったんだ?」
「この前奥様が言ってた、『中立でいにゃきゃいけにゃい』って、どういう意味にゃ?」
そうか。ミャウにはわからなかったかもしれないな。
「前に正妃様や側室様の身分なんかを教えたよな? 覚えてるか?」
「ん~と。確か、ラル兄さまの関係で、裏の丘に行った時の事だにゃ?」
「ああ、そうだ。その時はどこのどういう身分か、までだったけど・・・あれ、王国内部の力関係がそのまま表れてるんだ」
「王国内部の、力関係?」
セレネ様もそうだけど、この国、まだまだ時限爆弾抱えてるんだよな、ったく。
「カインは結構詳しそうだけど、俺が話すことで何か間違いがあったら言ってくれ」
「こちらから説明してもいいのだが?」
「オレの知ってることを整理する意味でもそのほうがいいんだ。頼めるか?」
「もとより承知した」
カインは可なり知っているみたいだから説明も分かりやすそうだけど・・・いやいや、あのぶっきらぼうな口調だと無理かな?
「我が主、何をお考えで?」
なにも考えてないよっ! やめろよ、その読心術と眼力!
ん、ゴホン。気を取り直して。
「ミャウはさ、不思議に思わなかったか? アケンドラ王国なのに、王族がシャスラン、てことに」
「ん? んんん? 国名と王族の姓が違うにゃ? にゃんで?」
「普通なら国名はそのまま王族の姓だ。そうなっていないのは、シャスランが王族ではなかった、ってことだよ」
「王族じゃにゃい? て、ことは・・・」
「シャスランの姓を持つ氏族がアケンドラ王族を追い落とした。そういうことだよ」
「王位を分捕った、ってことだにゃ?」
「あはは。言葉は悪いけど意味はあってるよ。もちろんそうする必要があったからなんだけど」
アケンドラの姓を持つ氏族は、昔からこの地を支配していた。当初は国という意識を持っていなかったらしいが、あちこちからいろんな人種が入って来てまとめる必要を感じたのだと史書には書かれていた。
「当然、アケンドラの氏族が王になったんだけど、『王国』ではなく『帝国』から始まったんだと聞いている。初代がアケンドラ大帝と名乗ったって書いてあった」
「別の大陸にあった『カッサンドラ帝国』を真似た、というのが定説になっている、な」
カインが補足してきた。
「へえ、そうなんだ。あ、それで『帝国王室規範』なんだ」
あの、二回分書写させられたアレ、どうして『帝国』が入るのか不思議だったんだけど、やっと意味が分かったな。要するに、初代のわがままだったんだ。
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