第60話 トラ転王子、お茶会に出る(2)
「そういえばユリウス様は『試練の洞窟』をお済ませになったのですわね。大変でした?」
ルーミィ様に問いかけられた。
「ええ、その時は分かりませんでしたが、あとで思い出すと、かなりきつかったですね」
「まあ、ユリウスでも大変だったの?」
「魔獣と戦うのは慣れもあって問題なかったんですけど、『第三の試練』に苦労しました。まだ未熟なので」
ホントになぁ、あれは酷かった。過去のトラウマをえぐりやがったユグ爺許すまじ。
「そうなのね。ギルもアルテもそんなこと言っていたわ。ルーミィのところはどうかしら」
「ミーリアは10歳ですし、トーラスに至っては8歳になりましたが、まだまだ遊びたい盛りのようで、試練を受けるつもりはないようですわ。あら、ユリウス様はトーラスよりもお小さいのに、すごいんですのね」
「いいえ、ボクの能力はちょっと特殊ですから、使いこなせないと何の意味もないんです。だから父さ・・・陛下に無理を言いました」
実際、当時の大司祭に絡まれたくらいだからね。
「でも、完了されたなら、それは素晴らしいことですわ」
「ありがとうございます。これからも頑張って精進します」
「フフ、そういうところ、ギルが気に入っているのかしらねぇ」
アデリーン様が微笑ましそうにボクを見てくる。声を発してもいいかどうか、母さまを見ると頷いていたので、
「ギル兄さまやアルテ姉さまには本当によくしてもらって、ボクはいつも感謝しているんです」
アデリーン様に伝わると良いな、そう思いながら軽く頭を下げる。
「まあまあ、そう聞くと嬉しいわ。わたくしは体質であまり子供が産めないものだから、カイラスには気の毒なことをしてしまったの。今でも悔やんでしまうのよ」
体質・・・? 何かあるのかもしれないけれど、聞かない方がいいんだろうな。
「何を仰っているのですか、アデリーン様! ギルバード様とアルティシア様、良くできたお二人がいらっしゃいますのに、誰が馬鹿なことをお耳に入れてますの!?」
ルーミィ様がいきり立つ。そういえばこの方、アデリーン様の侍女を務めていたっけ。
「ルーミィ様、お声が大きすぎますわ。御子の数で言えば少ないのでしょうが、お二人ともすごく優秀ですもの。何を言われても関係ございませんでしょう?」
こういうところ、母さまってできた人だと思うんだよな。見た目は儚いんだけど、ドンと構えて動じないんだもの。中身は肝っ玉かあさん、だよ。
ルーミィ様もすぐに落ち着いたみたいだ。
「大声をあげてしまい、失礼いたしました。お子様方は大丈夫でしたか?」
「ええ、心配はいりませんわ。この子たちったら、いったん寝付くとお腹がすくまでぐっすりですの。どうかするとユリウスの時より手がかかりませんのよ」
母さま、双子でそれって、大物過ぎる。
「それにアデリーン様。あなた様がおいでになるからこそ、わたくしたちは陛下にお仕えできていますの。体質など些細なことですわ。陛下の横にはアデリーン様がふさわしいのです」
「ミケイラ様・・・感謝いたします。そう言っていただけるだけで、胸のつかえがなくなるようですわ」
「まあ、わたくしはただ事実を述べただけですわ。誰もが思っていることですもの。ミリィ、フラウ。お茶を替えてくださいな」
「「はい、承知いたしました」」
すぐに替えられた茶は、香り、味、ともに不思議な感じだ。今まで味わったことがない?
「まあ、ミケイラ様、これはカッシバ産の茶葉ですわね?」
アデリーン様が驚いていらっしゃる。ああ、この間、荷物が届いていたっけな。
「お分かりになりまして? 実は実家から送られてきました荷物の中に在りましたの。お懐かしいのではと思いまして用意しましたわ。お帰りになるときにお持ちくださいな」
「本当にいいんですの? ありがとうございます。久しぶりに故郷の味が楽しめますわ」
なるほど。さすがは母さま。こういう時の気配りって真似できないよ。
お二人がお帰りになってから、オレはさっきの疑問を母さまに聞いてみた。
母さまが言うには、ヘイワード皇室は近親婚が続きすぎて身籠りにくい体質になってしまったんだとか。それでも構わないと父さまが正妃に迎えた時には、貴族から批難轟々だったらしい。
「陛下はアデリーン様お独りでよかったのだけれど、2年たった時に、側近や重臣の意見に負けてライラ様とシェルリィ様のお二方が入られたわ。そして、一番最初の御子が女児でサンドラ様なの」
男児を望んだお二方には相当なショックだったんでしょうね、と、母さまが笑う。
「そのすぐ後にギルバード様がお生まれになった時はすごかったのよ、もう」
そのせいで第一側室と第二側室は意地になられたのかも、母さまはため息をついてオレの頭を撫でた。
「わたくしは側室の中でも中立でいなくてはならない立場なの。だからあなたがアデリーン様と、ギルバード様、アルティシア様の味方になってあげて。お願いね」
「はい母さま」
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