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第6話 トラ転王子、魔獣を狩る(1)

 振り向くと、入口から何人かがオレの方を目指して歩いてくる。周りでだらけていた騎士たちが慌てて道を開けたり敬礼したりしているのを見れば、誰だってわかるよな。


「ギル兄さま、何か御用ですか」

「いや、キミの護衛達が恒例の立ち合いを始めたって言うから、見てみたいと思ってきたんだけれど・・・もう少し早く来ればよかったよ」


 軽く微笑みながらイケメンが答える。ギルバード・シャスラン、第一王子で王太子の地位についている。父さまに次ぐ魔力を持ち、人柄は穏やかで気配りもできる出来た兄さまだ。もちろん、それだけではないけれど、ね。


「それにしても、ユリウスは毎日ここに来ているって聞いたよ。熱心だね」

「父さまの役に立ちたくて鍛錬してます。まだ十分じゃなくて・・・」 

「キミの年齢でそう言うのか。あまり無理するんじゃないよ」

「はい! 声をかけていただいてありがとうございます」


 うんうんと満足げに頷いたギルバードだが、続けて


「ところで。さっき通報が届いたんだけど、キミも行かないか?」

 その顔にどこか引っ掛かりを感じる。これは・・・

「魔獣狩りですね! 誘ってくれるんですか?」

「ああ、たまには気晴らしが必要だろ? 良ければどうだい」


 なるほど。ギル兄さまが何を考えているかわかった気がする。

 オレは無邪気に見えるよう、笑顔を張り付けた。


「兄さまと一緒に行けるんですね! お供します!」

「恐れながら殿下、ユリウス様では力不足と思いますが」

 後ろについていた騎士のひとりが口を出す。こいつは確か最近お付きになった第二側室の縁者、だよな。


「問題ないよ。護衛達が付いているからね」

 あらら、その言い方は誤解を招く・・・ていうか、誤解させてるのか。


 案の定、そいつは鼻を鳴らしてオレを見やった。要するにオレは添え物、本命の戦力は護衛だ、と。

 うは~、なかなか策士だ、ギル兄さま。


「場所はここからそう離れてなくてね、馬で向かう」

「用意してきます。どちらへ行けばいいんですか?」

「じゃ、東門のところへ来てくれ。揃ったら出るよ」

 そう言いおいて、兄さまたちは出ていった。


 オレたちも自分の部屋に戻り、母さまと侍女に外出を伝えると東門に向かった。

 すでに何人かが乗馬し、今にも出発しそうだ。

 厩番がオレたちの方へ馬を引いてくる。カインがひらりとまたがった。

 ミャウもまたオレを抱えて軽々と乗馬し、準備完了。


 ん? オレ? まだ一人で乗馬する許可が出てないんだよっ。

 主に足の長さでな!・・・くそぅ。


 オレの気持ちをよそに、ギル兄さまが見回して、ひとつ頷く。

「これより討伐に向かう! 開門せよ!」


 ゴウゥンと重い響きを立てて両開きに門が開いていく。その隙間から、熱せられた空気と砂の匂いが吹き込んでくる。

 兄さまの護衛と近衛騎士、そしてオレたち。全部で10騎の影が砂煙をあげて目的地を目指した。






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