第58話 トラ転王子、お披露目騒動(4)
少し遠回りになったが何事もなく部屋に着く。
そのまま母さまたちを休ませて、オレは普段着で扉の前に陣取った。カインとミャウには殲滅じゃなく追い払うように頼んだから、多分こっちに来るだろう。
そう思っていたら案の定、
「ちょっと、≪無能≫! どっから戻ったのよ!」
予想通り、真っ赤っか(笑)が部屋まで押し掛けてきたんだ。
サンドラ&キャリンのおバカコンビと、同じく第一側室のディラン&第二側室のダリッドが組んだ脳筋コンビが取り巻きを連れて、だ。服装がちょっとよれよれしてたのはだいぶ引きずり回されたんじゃないかな。それでもこれだけ騒げるとは。
まったくうるさいことこの上ない。
「息を弾ませてどうしたんですか? 子供はもう寝る時間だと思いますが」
「あんただって起きてるでしょう!!」
「ボクは今から寝る準備してるんです。そちらはまだ正装ですね。今からどこかへお出かけですか? 魔獣が出ても知りませんよ」
「う、うるさいわね! 赤ん坊に会わせなさいよ! もうお披露目が済んだんだからいいでしょ!?」
「そうよ! 今からでいいから見せなさいよ!」
「大体、俺たちよりちやほやされて面白くない! 顔を見せろ!」
あ”あ”? な・ん・だ・と・・・?
こいつら・・・勘弁しねぇ。
「お断りします」
「なっなんで」
「この時間に押しかけてきて何がいいでしょだ。この非常識ども!」
「「「「ひっ!!」」」」
いけね。思わず威圧しちまった。ま、いいか。
オレは今まで抑えていた殺気を全開にして怒鳴った。
「いいか、赤ん坊は寝て、食って、泣いて育つんだ。昼も夜も関係なく、泣いて起きたら乳を飲ませて、おむつを替えて寝かせる、それを何時間おきかに繰り返していくんだぞ。そのリズムを壊す奴らになんて会わせられるかっ!」
「「「「あ、ああ、あああ・・・」」」」
全員が座り込んでがくがくしてる。やべ、ちょっと強烈過ぎたか?
その時後ろの扉が開いた。
「ユリウス、その辺でおやめなさい」
「えっ、か、母さま!?」
振り返ったオレが見たのは母さま。ガウンを纏った姿で出てきてるよ!?
母さまはゆったりとした動作で前に出る。
「皆様、今日はお祝いくださりありがとうございます。本来ならば、顔を見ていただくべきですが、あいにく二人ともまだ長時間起きていることが叶いませんの。皆様をはっきり見てお相手できるのはまだ先になりますわ。それまではご遠慮くださいませね?」
言葉は優しく、お礼も含めて常識的な挨拶を返す。たおやかな女性そのものだ。
だけど、込められた感情はまさしく『怒』一文字・・・
オレも怖い。
意訳すれば。
『夜に押しかけて何する気だ、この悪ガキども!!』
だろうな。
母さまは生粋の貴族令嬢だ。言葉の応酬や裏を隠したやり取りに慣れてるはずだよな。今更ながらよっく身に沁みて分かった気がする。
「では御機嫌よう。皆様もお戻りくださいませ。どうぞ、足元にお気を付け下さいね?」
何だろう、この悪寒。言葉だけなら何のことはない見送りの挨拶、だよな?
オレの耳に聞こえるのは・・・副音声・・・?
『さっさと消えろよ、ガキども。無事戻れると良いな?』
アーアーアー、オレは何も聞いてない、聞こえなかったーっ!
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