第57話 トラ転王子、お披露目騒動(3)
大きな両開きの扉が左右へ退いていき、目の前に赤い一本の道が見えた。『帝国王室規範』にあるとおり姿勢を正して王族らしく進んでいく。両側には王国の貴族たちが家族とともに並んでおり、進むにつれて最上級の礼を取っていく。後ろに続く父さま・・・陛下に敬意を表しているんだ。
入口近くは爵位の低い者たちがおり、王座に向かって徐々に上の爵位、役職持ちへとなる。その中を父さまとの距離を適切に保ち、急がず焦らず、玉座まで導いていくのがオレの役目。
あちこちでひそひそとささやく声がするが、おい、不敬だぞ?
特に側室のいる場所から聞こえてくるんだが・・・あいつら、また授業を増やされたいんかな。
玉座近くへ着いたら脇へ寄り、片膝ついて最敬礼。父さまたちが通り過ぎるまでその姿勢をとったまま、じっと動かない。
「皆の者、楽にせよ」
この一言で顔を上げる。
「今日は誠に良き日である。我が第三側室のミケイラに、新しい生命が与えられた。それも王子と姫の二人。ここに、第9王子アルク・シャスラン、第6王女イリス・シャスランの誕生を告知する!」
どっと沸いた人々の歓喜の声が高く天井の上まで響いた。これでオレの弟妹達は正式に王家の一員、家族と認められた。オレは母さまの腕に抱かれた二人を見やる。あれほどの騒ぎだったのに、二人ともぐっすり寝ている。うちの天使たちは大物や~っ(どや顔)
高位貴族から順に父さまと母さまにお祝いを述べようと列を作る。父さまはもちろん、母さまも笑顔を浮かべてお礼を返しているようだ。弟妹達は相変わらず寝たままだし、ホント良い子だ、うん。
しばらく様子を見ていたけれど、お祝いを述べる人の波が途切れない。オレは壁際に沿って移動していく。
だってさ、あんなごった返した中をかき分けて進めるわけないだろ? バーゲンセールの時のおばちゃんたちだって引くよ、あれは。この身体じゃ無理無理。
それでもできるだけ早くそばには行かなきゃ。母さまを心配させたくないし、あいつらが何かやってくるかもしれないし。
うちの天使たちに何かしてみろ、無事に帰れると思うなよっ!
「坊ちゃん、殺気がダダ洩れにゃ」
「うおっ、ミャウ、か。びっくりしたぁ!」
いつの間にかミャウが後ろにいた。一体どっから湧いてきた!
「アタシは天井や壁を伝うのが得意にゃ。坊ちゃんの気配をたどって天井から飛び降りたんにゃ!」
あ、間違えました。降ってきた訳ね、キミ。
「にゃにを一人で怒ってるにゃ? 今日はめでたい日にゃ」
「怒ってるんじゃないよ。早くそばへ行きたくてさ。まだ結構距離はあるだろ?」
そう言うと、う~んと考えて天井を指さす。
「上からにゃら早いにゃ!」
いやそうだけど・・・ひょっとして、キミ、オレを抱えて、なんて?
「よっし、行くにゃ!」
やっぱりだ~~っ!
そのあと、ミャウに担がれて母さまのところまで行きましたとさ。トホホ・・・
闘い済んで日が暮れて・・・じゃない、お披露目が無事に終了し、これからは夜の部に入るという時刻。ここからは大人のお話になるから、との理由で、子供たちは部屋に戻る。
あ、母さまは当然戻るよ。何せ、天使たちの世話があるしね。第一側室や第二側室は子供の世話を全部乳母や侍女に投げてたらしいけど、母さまはそんなことやる訳がない。天使たちを産んでから、母さまの表情が一段と優しくなって、オレ、嬉しい。
その母さまをエスコートして部屋に戻る途中、知覚網に引っ掛かった。
例によって真っ赤っか(笑)なやつ。
正面突破はやめよう。今は天使たちが一番大事。母さまもいるし、安全第一で。
「カイン、頼めるか?」
「もちろん」
「ミャウはもう少し先を頼むな」
「あいにゃ!」
「ユリウス?」
「母さま、こちらから行きましょう。今、向こうから酔っ払いが来ているようです。天使たちを起こしたくないので、少し回り道して行きましょう」
「あらそうなのね。ユリウスにお任せするわ」
「はい、母さま。ミリィ、フラウもたのむよ」
「「はい」」
ったくもう。あいつら覚えてろよ。泣くまで許さんからな。
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