第56話 トラ転王子、お披露目騒動(2)
「坊ちゃん、ちょっとは落ち着くにゃ! て前にも言ったにゃ」
「え、そんなこと言われても、だな」
正装のまま、部屋をうろうろしていたらミャウに怒られた。
「主は弟妹のことになると人が変わるからな」
壁際で刀を磨きながら、カインが笑う。
なんかこう、お尻がもぞもぞして座っていられないんだよっ、も~!
あ? なんでかって? よくぞ聞いてくれた!
今日、やっとお披露目なんだ、弟妹達の! 名前と一緒に家族として認められるんだよ! く~っ、頑張った甲斐があった! 兄ちゃんはうれしーぞ!!
「ま~た坊ちゃんの暴走が始まったにゃ~~」
「まあ、あれは病気のひとつだな。つける薬がない類の」
「恋の病かにゃ?」
「どうかするとそれより質が悪い」
「怖いにゃ~」
おいそこ、うるさいぞ! ほっといてくれ!
「ユリウス様、移動しますので先導をお願いします」
ミリィが声をかけてきた。
「は、はいっ、行きます!」
椅子から飛び上がって母さまの傍へ駆け寄ると、その両腕にあるのはオレの天使たち。
「はわわわ~、可愛い・・・」
「ふふっ、ユリウスはいつも笑顔ね、この子たちを見ると」
「え、こんなかわいい寝顔を見て怒る人はいませんよ、笑顔の一択です」
「そうね。でもユリウス、貴方もわたくしの大事な可愛い子なのよ。それは忘れないでね?」
「はい、母さま!」
うう、母さま優しい! オレの事、いつも愛してくれてるって実感できる。
だからこそ、どんな状況になっても守りたい、守れるように、強くなりたい。たとえ、それが≪魔力喰らい≫という、訳わからん能力を使ってでも守ってみせる。
母さまをエスコートしながら、オレは心の中でこぶしを振り上げていた。
体育会系? 言いたい奴には言わせとけ。実力行使で除いちゃるわ!
そんな俺の気迫にビビったのか、今日はうるさい奴らも寄ってこなかった。再教育の号令があってからやや静かにはなったが、それでも鬱陶しいことに変わりはないしな。
お披露目の会場には正妃をはじめ側室たち、側室の子供たち、そして王国の貴族が勢ぞろいしている。外国の大使へは誕生その他を伝えるだけで、ある程度の歳になるまで顔を出さないことがこの国のやり方だ。ま、そのせいで教育がおろそかになったってこともあるんだけど。
いつもなら母さまは側室として先に入っているんだけど、今日のお披露目はいわば主役。父さまにエスコートされて最後にはいる。オレは扉の前まで母さまを誘導し、そこに居た父さまにバトンタッチだ。
「父さま、お願いします」
弟妹達の傍を離れるのは寂しいけど、ここは我慢しなくちゃな。
「うむ。ユリウス」
「はい、父さま」
何故か名前を呼ばれて首をかしげる。
「今日は許すゆえ、余と妃を先導せよ」
「! はいっ、頑張ります!」
わわわっ、父さまに先導役を命じられたっ!
普通なら王太子のギル兄さまか近衛騎士の誰かなんだけど、今日はオレがその位置に立て、てことなんだ。すっげぇ名誉なんだぜ、これ。
ギル兄さまもアルテ姉さまも頷いてる。うん、これ決めてあったな。
「名誉なことだね。あっちで見ているよ」
「あなたなら大丈夫ねユリウス。頑張ってね」
二人が声をかけてくれ、そして入っていった。
「カイン、ミャウ。二人は父さまと母さまの後ろについてくれ。ミリィとフラウも一緒に」
「承知」
「了解にゃ」
「「わかりました」」
ふう。深呼吸をひとつ、目をつむって集中する。うん、オレ落ち着いてるな。
今日は弟妹の晴れの舞台、その中で受けた先導役だ。しっかり努めないと。
そら、入場者の読み上げが始まる。
「国王様第三側室様のご入場です。先導は第8王子ユリウス様がなされます」
何やらどよめいてるが構うことはない。さあ、入場だ。
両開きの扉が大きく開かれた中央へ、オレは姿勢を正し、胸を張って進んだ。
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