第54話 トラ転王子 外伝(3)
王都の西にあるパレッサの街。冒険者ギルドのギルマスは頭を抱えていた。
問題は目の前の通達。たかが紙切れではあったが、扱いが分からない。
「失礼します、ギルマス。お呼びですか?」
そこへノックと共に入ってきたのは副ギルマスの狐獣人。
「来てくれたかノークス。ちと相談したい」
「え、どうしたんです。ギルマスが相談なんて・・・明日は雨ですかね」
「無駄口はいいから。これ見てくれ」
おちゃらかす狐獣人の目の前に、紙を突き出す。思わず受け取って目を落とした副ギルマスだが。
「は? え? 国王様からの、通達ぅ!?」
「声がでかい!」
間髪入れず突っ込んできたギルマスに片手をあげて謝罪し、目は文字を追うのに忙しい。一通り最後まで読み、うつむいて考える。そしてもう一度、今度はゆっくりと読み込んでいく。
2度読んで顔をあげギルマスと視線を交わす。
「これ、どうしたらいいと思う?」
「どうしたもこうしたも・・・読んだ通りでしょーね、これは」
「だよなぁ。でも、こんなこと信じられるか?」
「信じる信じないより先に、こんなこと公にできませんよ。無理です」
「そう言うよな、誰だって。こんな、5歳児がなぁ」
二人して通達に目を落とす。
そこには王国のマークと共に、ある情報が載っていた。
『 アケンドラ王国内のすべての街、すべての村、そのギルドに通告する。
最近、魔物や魔獣の活動及び出現数が大きく増えていることは承知して
いることと思う。
この事態を憂い、王侯貴族の能力発現者が、凶悪化した魔獣の討伐に
当たることとなった。その中には王族も含まれる。
殊に、第8王子ユリウスにおいては、卓越した能力によって討伐実績
を数々こなしてきている。
しかしながら、5歳という年齢、容姿共に幼く見られ、近しくない者
からは不審がられた事例が出たように聞き及んだ。
それ故、ここに国王の名によって宣言する。
ユリウスの能力により、魔獣被害を未然に防いでいるのは事実である。
しかし、そのことを公表すれば、いたずらに混乱を招き、いらぬ騒ぎを
引き起こすこととなるため、ギルド内部で秘匿すること。
また、ユリウスの討伐に関わった者たちの報告があれば、同様に処理を
されたい。
これは情報を秘匿するだけであり、魔石や毛皮、肉などの現品、及び
その報酬等について王家が関わることはなく、従来と同様の取り扱いで
行ってほしい。
以上
アケンドラ王国国王 カイラス・シャスラン』
何度読んでも内容は変わらない。
変わってほしいと切実に願っているのは事実だけれども、現実は非情だ。
「・・・これ、本当なんでしょうか?」
長い沈黙の末に、ノークスから出たのは疑問だった。
「俺もそう思ってな、あちこちのギルドに問い合わせたんだ。そしたら」
「そしたら? もしかしてありました、か?」
あってほしくない、との気持ちが張り付いた副ギルマスの問いに、
「あった。あったんだ」
苦々しく、絶望を秘めたギルマスの声が響く。
「・・・あったんですか・・・」
「東のトライバル、そこのギルマスから返答が来た。『シュラルの谷』で冒険者が二人、行き会ったそうだ。その時、タイラントボアと遭遇し、死を覚悟したが、助けられた、らしい。そして逆に、謝罪されたんだと」
「は? 謝罪、された?」
「ああ。タイラントボアの群れを討伐したが、討ち漏らした1頭がそいつらと遭遇したため、申し訳なかった、そう言って、丸々1頭寄こしたんだとさ」
「・・・ちょっとちょっと待って、待ってくださいギルマス。今、聞き漏らせない言葉がいくつかあったんですが!」
「そう思うな、そうだろ? タイラント、ボアの、群れってなんだよ!? 討ち漏らしたってどういうことだよ?! 丸々1頭ってどういうことだよおぉっ!」
「ギルマス、声がでかいです・・・」
「おっきくもなるさ、意味が分からんっ!!」
「抑えてくださいっ!!」
二人して肩で息を切って脱力し、椅子に座り込む。どうにもこうにもうまくまとめられない。
「・・・トライバルでしたね、そこ」
「・・・ああ。あそこのギルマスはよく知ってる。嘘はつかん奴だ」
「ならば、実際にあった、ことなんですね・・・」
「そうだな。・・・まず間違いなく」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「では、そういうことでしょう」
「だな。もし、ウチで似たことがあれば・・・」
「・・・秘匿、ですね」
「受付の奴らに、言っておいてくれ。『広めるな』と」
「わかりました。きっちり守らせます」
「頼む。それと、その王子だが、護衛が二名張り付いているらしい。黒ずくめの男と、獣人の女の子だ」
「ちっさい男の子と、黒ずくめと獣人、ですね。その組み合わせは鬼門と言い聞かせましょう」
ウチに来ないでほしい、そうギルマスは願ったが、果たして・・・
ユリウスたちの討伐を外から見たら、こんな感じかな?
騒ぎにならないのは国王の配慮がありました、というオチです。
読んでいただき、感謝です^^
次からは元に戻ります。




