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第50話 トラ転王子、あの日の真実を知る(6)

 それから数分後、再び魔法陣が光って二人が戻ってきた。

 パッと見たところ、どこも怪我はないようだったのでひと安心だ。


「坊ちゃん帰ったにゃ~」

「我が主、ただいま戻りました」

「お帰り。二人ともご苦労様。向こうはどうだったか、父さ・・・陛下とボクに報告してくれ」


 うっかり父さまと言いかけて言い直した。ここは皆が聞いている、半ば公式の場だ。きちんとしておかないと陛下の恥になる。


「承知仕りました。手前から報告いたします」

 カインもその辺は分かっていて、言葉遣いもそのように変えてくれる。出来た護衛だと思う。

 こういう場でミャウは一切発言しない。すべてカインにお任せだ。


「転移した先ではやはり『瘴気』が一帯に充満しておりました。殿下の施してくれた魔法により直後の損耗が避けられましたので、その場にて聖水を振りまき、まずは身の安全と足場の確保を行いました。


 聖水の効果により、『瘴気』を弱めることができましたので、大元の捜索を開始しましたところ、魔法陣より右前方30メルトルにそれらしきものを発見いたしました。


 即座にミャウと二人で攻撃を行い、無事大元を破壊いたしました。その後、念のために聖水を振りまいて清めるところまで終了いたしております」

「うん、ご苦労様」


「『瘴気』の大元となったモノは、本来ならば跡形もなく滅するべきではありましたが、ひとつ、聖なる波動を残したものが見つかりましたのでここに持参いたしました。お確かめください」

 そう言って、懐から布切れを出し、そこにくるまっている物を差し出してきた。


 父さまを見ると軽くうなずいたので、オレが手に取って包みを開く。


 それは歪んではいるがブローチの台座だった。マントなどを羽織るとき、肩口で止める形式のごく小さなものだ。


「・・・!」


 後ろで父さまが身じろぎした。これが何か、分かったのだろう。

「わかった。これはこちらで預かろう。陛下、お言葉を頂けますか」

「うむ。余からも改めて伝える。二人ともよくやってくれた。感謝する」

「過分なお言葉を頂戴いたしました。恐悦至極です」


「では、ここを引き上げよう。後の措置は騎士団と魔術師団に任せる。『瘴気』を完全に滅し、この場を整えよ、良いか」

「「「「「「ははっ!」」」」」」

「ユリウス、護衛達。ついて参れ」

「はい、お供いたします」

 これでひと先ず危機は回避できた、かな。




 再び執務室に戻ってきた。

 ソファーに身体を投げ出し、大きく息をつく父さま。

「今日はさすがに疲れたの。ユリウスもよくやってくれた」

「ボク、役に立ちましたか?」


「うむ、アケンドラ王国の王子として恥ずかしくない働きであった。日頃の研鑽が実を結んだという事だな。余の自慢の息子だ」

「父さま・・・ありがとうございます!」


 ここまで言ってもらえるとは! もう嬉しくてはしゃぎそうになるのを抑えるのが大変だ。

「この褒美は何が良いか? 希望があれば手を尽くそう」


 そ、そんな急に言われても・・・でもそういえばひとつあったな。


「では父さま。ラル兄さまにあの日あった事を教えてください。ボクに伝えられることすべてを」

「・・・それはこの後話すと約束していた事であるぞ? それでよいのか?」

「はい。もう逃げたくないのです、何からも」

「ふむ、決心は固そうだな。良いだろう、話して遣わそう」

 そして、あの日に起こったことを語り始めた。




 原因はやはり薬草の遅滞にあった。ただでさえ健康に不安のあったセレネ様に流行病(はやりやまい)が避けられたわけもない。すぐに重篤な状態に陥った。だが、宮廷内部から嫌われていた彼女に、薬が渡るはずもない。ラルフィがどれほど懇願しようとも、それは手の届かないものだった。


(少なくとも、父さまの耳に入ればそうならなかったと思うけどな・・・)



 当時、陛下は仕事に忙殺されており、正妃含めて妃たちの動向にまで気を配ってやることができなかった。そのため、セレネ様はあと少しで儚くなるところまで追いつめられていたのだ。

 焦ったラルフィは、自らが薬草を調達しようと思い詰めた。そのチャンスは一度きり。近衛騎士団が『東の魔の森』へ薬草の採取に行く日取りを突き止め、そこに便乗しようと決めたのだ。


 『魔の森』の恐ろしさは十分にわかっていたんだろう。でも、それよりもセレネ様の命の方が、ラル兄さまには大切だった。周りがすべて敵の中、ラル兄さまは相談する相手を見出すこともできず、やみくもに危険に飛び込んでしまったんだ。





読んでいただき、感謝です!

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