第49話 トラ転王子、あの日の真実を知る(5)
「なんという無茶をするのだ・・・」
「だ、大丈夫、です、父さま・・・少し、休めば」
「そんな顔色で言うても、な。余が支えていよう。術士よ、回復を」
「は、はいっ」
回復の光がじんわりと身体を温めて、異物感を溶かしていく。オレ自身も手を腹に当てて、さっきの光を身体の中に流し込んだ。取り込んだ冷たい塊が溶け、消え去っていくと倦怠感も薄れてきた。
「父さまありがとうございます。楽になりました」
「全く無茶をする奴よな。肝が冷えたわ」
「ごめんなさい」
「良い良い。皆を助けたくてやったのだろう? よくやった」
「・・・父さま」
その時、扉を開けて騎士が戻ってきた。手に聖水入りの鉢をいくつか抱えている。
「陛下! 神殿にて、聖水を預かってまいりました!」
「うむ、良く戻った」
父さまに魔術師が近づく。
「陛下、聖水を頂けますか。まずは、魔法陣の中を清めまする」
「任せよう」
聖水1鉢をその術士に渡す。すぐに何人かで聖水を魔法陣内に振り撒き始めた。
時々ジュッと音がするのは残っていた欠片に反応したのだろう。
その作業を見ながら、父さまが
「当面の処置はこれでよかろう。だが、根本の問題が残っておるな」
「父さま、ボクが・・・」
「そなたにこれ以上の負担はかけられぬ。無茶と無謀は違うのだぞ」
「・・・はい」
「そこで、の。ユリウス。そなたの護衛達を貸してくれぬか?」
そういうとカインとミャウに顔を向ける。
「あれと対峙したことのある者たちなら、聖水をうまく使えるであろう。転移先にある『瘴気』を消して大元を破壊してきてほしい」
父さま・・・陛下から声を掛けられた二人は戸惑った顔をしている。そこで、
「ボクからも頼む。手を貸してくれ」
オレも一言添える。二人は父さまと俺の顔を見て、その場に跪いた。
「承知」
「了解にゃ」
せめてもの援護にと、その二人の頭に手を当てて、さっきの光をイメージする。
手からあふれる光が二人の全身を覆い、薄く張り付いた。
「主、これは先ほどの?」
「聖水を浴びたのと同じ効果があると思う。向こうへ行った途端に襲われると厄介だから、まずはそれで弾けるはずだ。ただ、そんなに続かないから、短期決戦で。頼むよ」
「これなら大丈夫にゃ! 頑張るにゃ!」
「二人とも、気を付けてくれ。無理なら戻ってくれて構わない」
「我が主、心配は無用。『瘴気』は我ら黒の傭兵にとって取るに足らぬ相手。すぐに戻りまする」
聖水の鉢を傾けて二人の武器を濡らす。身体と同様に光がまとわりついて幻想的な雰囲気が出る。ちょうどおとぎ話の英雄のように。
「行くぞ、ミャウ」
「やるにゃ!」
何の気負いもなく、二人は転移魔法陣に飛び込んでいった。
「ユリウスよ。先ほどの技もそうだが、今二人にかけたのは聖魔法か?」
「いいえ、父さま。似た働きではありますが・・・どちらかと言えば光魔法に近いと思います」
「ほぉう!?」
「まだ十分に把握できていないので拙い技になってしまいました」
「あれでか? やれやれ、ユリウスと言い、護衛達と言い・・・そなたたちは規格外であるの。余には理解しきれぬ」
「・・・ごめんなさい、父さま」
呆れたような声に、身をすくませる。期待に応えられなかった・・・そう思っていると、頭の上にあたたかな感触がのった。
「何を謝る。そなたたちは十二分な働きをしておるぞ。おかげで余の大事な騎士たちの命を守ることができた。うつむかず、顔を見せてくれ」
ハッと顔を上げると、父さまが優しく微笑んでくれていた。
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